内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手歳時記:夕顔の香り
2016-07-12 Tue 11:58
 ご報告が遅くなりましたが、公益財団法人・通信文化協会の雑誌『通信文化』2016年7月号ができあがりました。僕の連載「切手歳時記」は、今回はこの1点を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      見立夕顔

 これは、1981年の切手趣味週間の切手で、鈴木春信の「見立夕顔」が取り上げられています。

 『源氏物語』の「夕顔」は、ある夏の日、17歳の光源氏が、六条の御息所のもとに通う途中、五条に立ち寄り、病身の大弐の乳母を見舞う場面から始まります。

 当時の五条は庶民が生活している地域で、貴族の邸宅とは比ぶべくもない貧相な家が数多くありましたが、そうした家の垣根には白い花が美しく咲いていました。

 源氏が従者に花の名前を問うたところ、「あの白い花を夕顔と申します。人間のような名でございまして、こうした卑しい家の垣根に咲くものでございます」とのこと。そこで、「気の毒な運命の花だね。一枝折ってこい」と従者に命じ、隣家の夕顔を取りにやらせたところ、その家の女性は自分の扇に花を乗せて源氏に贈ってきました。

 見舞が終わって、あらためて源氏が夕顔の載せられていた扇を見てみると、きれいな字で「心あてにそれかとぞ見る白露の 光添へたる夕顔の花」との歌が書かれています。これを見て、彼女に興味を持った源氏は、「よりてこそそれかとも見めたそがれに ほのほの見つる花の夕顔」との歌を返しました。

 これが縁となり、乳母の息子、惟光の橋渡しで源氏は彼女(=夕顔)のもとに、身分を隠して通うようになります。

 その後、2人の関係はしばらく続いたが、旧暦8月15日、中秋の逢瀬の際に、六条御息所の怨霊が現れて恨み言を言い、夕顔はそのまま意識を失って、明け方に息を引き取ってしまいました。

 『源氏物語』の原文には、源氏が夕顔と初めて出会った日付についての記述はありません。ただ、夕顔の命日となった旧暦8月15日が陽暦の9月半ばくらいであり、夕顔の花が咲くのは陽暦の7月から9月にかけてのことですから、2人の出会いは7月の中下旬、ちょうど今頃の時季だったのではないかと思います。

 さて、今回ご紹介の切手にも取り上げられた、鈴木晴信の「見立夕顔」は、上述の源氏と夕顔の出会いの場面から着想を得て描かれた見立絵です。

 見立絵というのは、王朝文学や古典の詩歌などを主題としながら、そのモチーフを当世風俗で描いたもの。「見立夕顔」では、画面左の娘が手にする扇には、夕顔の花ではなく、恋文が載せられており、若者の供の子供が持つ虫かごが御所車のかたちをしていることで、『源氏物語』にちなむ見立絵であることが示されています。

 さらに、切手では少しわかりにくいのだが、若者の着物の袖に家紋を模した文様が入っていますが、これは「源氏香の図」の“夕顔”で、これがあることで、この見立絵が『源氏物語』の「夕顔」にちなむものであることが(わかる人には)わかるという仕掛けです。

 源氏香は、5種の香木を各5包、計25包用意したうえで、その中の5包みをとって、順に香を聞いていき、その異同を紙に記して楽しむという遊びで、異同の組み合わせが52通りあることから、それぞれのパターンを『源氏物語』54巻のうち桐壷と夢浮橋の巻を除いた52巻にあてはめるというものです。

 それぞれのパターンを、5本の縦線の頭のつなぎ方によって図示したのが「源氏香の図」で、“夕霧”の場合は、右から2番目と3番目の縦線の頭のみをつなぐことで、2番目と3番目の香が同じで、他は異なるという組み合わせを表現しています。具体的には、下の画像のような図です(隣に、袖の部分の拡大図も載せておきます)

      源氏香図・夕顔  見立て夕顔・部分

 したがって、この絵が「見立夕顔」であることを理解するためには、『源氏物語』の知識だけでなく、香道にも通じていなければならないわけですが、江戸の通人たちは、この絵を見てぱっとそれがわかったんですよねぇ。いやはや、己の不明を恥じ入るばかりです。


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