内藤陽介 Yosuke NAITO
http://yosukenaito.blog40.fc2.com/
World Wide Weblog
 ユダヤ新年
2016-10-03 Mon 11:35
 きのう(2日)の日没をもって、ユダヤ暦5777年の“ローシュ・ハッシャーナー”(新年。直訳すると“年の頭”の意)となりました。というわけで、きょうはストレートにこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

      ウクライナ・ユダヤ新年(2016)

 これは、今年(2016)年8月27日、ウクライナで発行された“ウクライナのマイノリティ:ユダヤ人”の切手のうち、ローシュ・ハッシャーナーを取り上げた1枚です。

 古代ユダヤには、春から1年が始まる宗教暦と秋から1年が始まる政治暦が併存していました。政治暦は旧約聖書・レビ記23章24節に「第七の月の一日は安息の日として守り、角笛を吹き鳴らして記念し、聖なる集会の日としなさい」とあるのを根拠として、宗教暦の7月1日から始まります。ただし、ユダヤ暦は太陰暦ですので、毎年、新年の日付は異なります。また、ユダヤ暦の紀元は、ユダヤ教において神が世界を創世した日を西暦に換算したとして、紀元前3761年10月7日とされています。

 さて、ユダヤ暦の“お正月”としてのローシュ・ハッシャナーは、旧約聖書の記述に倣い、シナゴークでラビが雄羊の角笛(ショファー)を吹き鳴らされることから“ラッパの祭り”とも呼ばれています。今回ご紹介の切手は、その場面を取り上げたものです。

 また、個人の生活としては、家族や親戚が集まり、今後1年間が“甘い年”となるようにリンゴやパンを蜂蜜に浸して食べたり、“実がいっぱいに詰まった年”となるようにザクロざくろを食べるほか、食事のメインには“年の頭”にちなんで尾頭付きの魚を食べる習慣があります。

 現在のウクライナ国家に相当する地域は、かつて、ポーランド・リトアニア共和国の支配下で、多数のユダヤ人が生活していました。1795年の第3次ポーランド分割でポーランド・リトアニア共和国は完全に消滅し、ウクライナはロシアの支配下に入りますが、すでに1794年から建設が始まっていたウクライナ南部の港湾都市、オデッサとその周辺には多くのユダヤ人が住みつき(19世紀末にはオデッサ市の人口の3分の1がユダヤ人と言われるほどでした)、オデッサはロシア・ユダヤ文化の中心地となります。

 しかし、1881年、ロシア皇帝アレクサンドル2世が暗殺されると、首謀者はナロードニキ派で貴族出身の非ユダヤ人、ソフィア・ペロフスカヤだったにもかかわらず、犯人グループの中にユダヤ人女性革命家ゲシア・ゲルフマンがいたことから、民衆の間で事件はユダヤ人の陰謀とする煽動が行われ、ウクライナと南ロシアでポグロム(流血を伴う反ユダヤ暴動)が発生。以後、この地域では断続的にポグロムが発生し、多くのユダヤ人がウクライナから脱出していきました。ちなみに、映画やミュージカルで有名な「屋根の上のヴァイオリン弾き」は、この時代のウクライナのユダヤ人家庭を舞台に、最終的に、彼らがポグロムによって故郷の村を追われるというストーリーになっています。(原作の小説では、主人公一家はイスラエルの地へ帰還する設定ですが、ミュージカルではニューヨークに向かうところで幕となります)

 さらに、1941年に始まる独ソ戦では、ドイツ側は「戦争の責任はユダヤ人にあり、ドイツ民族の生存を望まないユダヤ人は絶滅する必要がある」と主張し、ドイツ占領下のウクライナでは、地元住民を巻き込んでのユダヤ人虐殺が行われています。特に、キエフ近郊のバビ・ヤールでは、1941年9月29-30日 ウクライナ警察の協力の下、ユダヤ人は移住させるから集合せよとの布告を信じて集められたユダヤ人3万7000人が徒歩で移動中に次々に射殺されたのを皮切りに、1943年までに10万人のユダヤ人が殺害されました。

 このため、独ソ戦開戦時の1941年には270万人いたとされるウクライナのユダヤ人は、第二次大戦後、最初の国勢調査が行われた1959年には84万人にまで激減。さらに、ソ連末期の1991年8月24日、ウクライナがソ連を離脱して再独立すると、過去の先例から、共産主義政権下で抑え込まれていたウクライナ民族主義の高揚に危機感を覚えたユダヤ人の出国(主な出国先はイスラエルです)が相次ぎ、2014年の国勢調査ではユダヤ人口は6万7000人にまで落ち込みました。

 ちなみに、2016年4月10日にウクライナの首相に就任したヴォロディーミル・フロイスマンは、ソ連時代の1978年にウクライナのヴィーンヌィツャで生まれたユダヤ人です。歴史的に反ユダヤ主義が強かったウクライナでの、ユダヤ人首相の誕生は画期的な出来事で、今回ご紹介の切手が発行されたのも、そうした背景事情が大きくかかわっているのではないかと思います。
 

★★★ 講座のご案内 ★★★

 ・よみうりカルチャー荻窪 「宗教と国際政治」
 10月から毎月第1火曜の15:30より、よみうりカルチャー荻窪(読売・日本テレビ文化センター、TEL 03-3392-8891)で講座「宗教と国際政治」がスタートします。初回は10月4日です。ぜひ、遊びに来てください。詳細は、こちらをご覧いただけると幸いです。

 ・毎日文化センター
 それぞれ、1日講座をやりますので、よろしくお願いします。(詳細は講座名をクリックしてご覧ください)

 10月11日(火) 19:00-20:30 リオデジャネイロ歴史紀行
 11月17日(木) 10:30-12:00 ユダヤとアメリカ 
  

★★★ ブラジル大使館推薦! 内藤陽介の『リオデジャネイロ歴史紀行』  ★★★ 

       リオデジャネイロ歴史紀行(書影) 2700円+税

 【出版元より】
 オリンピック開催地の意外な深さをじっくり紹介
 リオデジャネイロの複雑な歴史や街並みを、切手や葉書、写真等でわかりやすく解説。
 美しい景色とウンチク満載の異色の歴史紀行!
 発売元の特設サイトはこちらです。

 * 8月6日付『東京新聞』「この人」欄で、内藤が『リオデジャネイロ歴史紀行』の著者として取り上げられました!

       リオデジャネイロ歴史紀行(東京新聞)


 ★★ ポストショップオンラインのご案内(PR) ★★

 郵便物の受け取りには欠かせないのが郵便ポストです。世界各国のありとあらゆるデザインよろしくポストを集めた郵便ポストの辞典ポストショップオンラインは海外ブランドから国内製まで、500種類を超える郵便ポストをみることができます。
スポンサーサイト

別窓 | ウクライナ | コメント:0 | トラックバック:0 | top↑
<< ノーベル医学生理学賞に大隅良典氏 | 郵便学者・内藤陽介のブログ |  世界の国々:ニカラグア>>
この記事のコメント
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
| 郵便学者・内藤陽介のブログ |
copyright © 2006 郵便学者・内藤陽介のブログ all rights reserved. template by [ALT-DESIGN@clip].
/