内藤陽介 Yosuke NAITO
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 ハングルの日
2016-10-09 Sun 11:38
 きょう(9日)は、1446年10月9日(世宗28年9月10日)に朝鮮王朝の世宗が朝鮮語を表記するための文字(以下、ハングル)の解説書『訓民正音』を頒布したことにちなみ、韓国では“ハングルの日”の祝日です。というわけで、今日はこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

      南朝鮮・ハングル500年

 これは、1946年10月9日、米軍政下の南朝鮮(大韓民国はまだ発足していません)で発行された“ハングル500年”の記念切手で、ハングルの文字表が取り上げられています。ちなみに、北朝鮮では朝鮮語を表記するための文字は“チョソングル”と呼んでおり、ハングルが作成された世宗25年12月(日付不明)が西暦でほぼ1444年1月に相当することから、1月の中間の日である1月15日を“チョソングルの日”としています。

 さて、朝鮮語を表記するための独自の文字は、古くは“諺文”の通称で呼ばれていましたが、それが“ハングル”の名で呼ばれるようになったのは、日本統治時代の1912年以降のことで、その由来は“偉大なる文字”の意味とも、“韓の文字”の意味ともいわれています。その後、1921年に結成された朝鮮語研究会(現ハングル学会)は、1927年に雑誌『ハングル』を刊行し、さらに翌1928年に“ハングルの日”を制定(1926年以来、ハングルの覚え歌である「カギャコギョ(가갸거겨)」にちなんで行われていた“カギャの日”から改称)するなどして普及活動に努めたことから、しだいに諺文よりもハングルの呼称が定着しました。

 1910年の韓国併合当時、朝鮮の識字率は非常に低かったため、朝鮮総督府は、日本語による学校教育と併行して、初等教育での諺文(朝鮮総督府としては、1945年までハングルという呼称は正式には使用していません)の使用を推進。この結果、漢字とハングルの混用という文体が急速に普及し、朝鮮内の識字率も飛躍的に向上します。なお、日本統治時代は朝鮮人によるハングルの使用が厳しく制限されていたという人がときどきいますが、それは歴史的事実と異なり、多くの朝鮮人はハングルを日常的に使用しており、日本統治時代にハングルで書かれた葉書も少なからず残されています。

 ところが、1945年の解放後、日本語が漢字を使用していることにくわえ、新羅以来の中国への従属の歴史への反発などもあって、漢字を排斥し、朝鮮語をハングルのみで表記しようとする機運が南北朝鮮で盛り上がりました。

 早くも1945年9月には、1942年以降活動休止に追い込まれていた朝鮮語学会(1931年に朝鮮語研究会から改称)は国語講習会を開催し、9月29日、「漢字廃止実行会発起趣旨書」を発表。日本の敗戦の原因は漢字かな交じり文の非効率性にも一因があり、漢字学習の時間を減らして、その分を科学教育に割り当てるべきとする日本の国語学者・保科孝一の言説(戦後日本の国語審議会が推進した“漢字制限”は、こうした発想によるものです)に依拠しつつ、①初等教育からの漢字の除外(ただし、中等教育以上においては、古典研究のため漢字教育を否定しない)、②日常の文章からの漢字の排除、③新聞・雑誌からの漢字の排除、④書簡封筒・名刺・表札の純ハングル化、⑤古今東西のあらゆる書籍のハングルによる翻訳、を活動目標として掲げました。

 これを受けて、11月30日、ソウル市寿松町の淑明女子校講堂で漢字廃止実行会発起準備会が正式に発足。軍政庁に対して初等学校教科書から漢字を廃止するよう建議します。

 一方、軍政庁でも、教育部門の責任者であったロッカード大尉の補佐官として文教部長に就任した呉天錫や、呉の推挙により朝鮮語学会の常務理事から学務局編修課長となった崔鉉培により、朝鮮語学会の唱えるハングル専用路線が文教政策の柱として採用される環境が整えられていきました。

 かくして、軍政庁は朝鮮語学会の建議を受けて、ハングル専用を指示。1948年8月に大韓民国が正式に発足すると、ハングル専用法が公布され、漢字廃止運動は国家の制度として動き始めることになります。今回ご紹介の切手も、そうしたプロセスにおいて、軍政庁の政策を周知宣伝するための一手段として発行されたものと考えてよいでしょう。

 なお、このあたりの事情については、拙著『朝鮮戦争』でも詳しくご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。


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