内藤陽介 Yosuke NAITO
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 梅と振袖
2017-01-09 Mon 17:50
 きょう(9日)は“成人の日”です。成人式といえば、やはり女性の振袖。というわけで、振袖姿の女性が描かれた切手の中から、この1枚です。(画像はクリックで拡大されます) 

      野崎村・鏑木清方

 これは、2010年10月8日に発行された国際文通週間の切手のうち、鏑木清方の「野崎村」を取り上げた1枚です。

 歌舞伎や人形浄瑠璃の演目として知られる「野崎村」は、宝永7(1710)年、大坂で大店の娘お染と丁稚の久松が心中したことを題材とした近松半二の作品『新版歌祭文』の「第三幕 野崎村の段」の通称で、安永9(1780)年に大坂・竹本座で初演されました。清方の作品は1914年に制作された歌舞伎絵で、2代目・市川松蔦のお染が、6代目・市川門之助のお常(お染の母親)に手を引かれていく場面を描いた作品。現在、東京・半蔵門の国立劇場の2階ロビーに飾られています。

 物語は(旧暦の)正月の少し前で、野崎村ではもう早咲きの梅が咲いているという設定で、清方は、お常の手に梅の枝を持たせることで季節感を表現しました。ちなみに、実際の心中事件のあった宝永7年で考えるなら元日は1710年1月30日、「野崎村」初演の安永9年で考えるなら元日は1780年2月5日ですから、かつてのように、成人の日が1月15日に固定されている時代だったら、ちょうどその頃のお話ということになりましょうか。

 大坂の油屋に奉公する久松は、養父である野崎村の農家・久作の妻の連れ子おみつと許婚でしたが、久松本人はおみつに対する恋愛感情はなく、店の娘お染とも相思相愛の仲で、お染は久松の子を宿していました。

 しかし、主人と奉公人の許されぬ恋であるうえ、お染には山家屋との縁談もまとまり、2人の前途に希望はありません。そうしたところへ、久松には店の金を使い込んだ疑いがかかり(後に冤罪であったことが明らかになりますが…)、しばらく親元に帰されることになりました。久松は嫌疑が晴れれば店に戻るはずでしたが、同行してきた小助は「金返せ」と暴れます。

 すでに、久松のトラブルを知っていた久作は、全財産を売り払って一丁銀を用意しており、小助に渡して追い返し、これを機に久松とおみつの祝言を挙げさせる心づもりでした。

 事情はともあれ、店に戻るわけにいかなくなった久松ですが、彼と一緒になることをずっと心待ちにしていたおみつは、思いがけず、すぐに祝言となったことに大喜び。まさに幸せの絶頂で、包丁に顔を写して髪を直してみたりして、いそいで準備に取り掛かります。

 この間にも、おみつの存在を知らず、久松のことを忘れられないお染は一路、久松のいる野崎へ向かいました。半刻の後、お染は久松の家に現れました。田舎の農家の裏木戸には不似合いな、垢抜けた振袖(清方の絵画では、お染の振袖の地色には黒・藍・臙脂・胡粉等の混合色が用いられており、非常に深みのある色合いになっています)のお嬢様を見て、おみつは彼女が久松と恋仲にあることを瞬時に見抜くのですが、ひとまず、久作はおみつを連れて引っ込み、お染と久松は二人きりになります。そこで、一緒になれないならひとりで死ぬというお染の言葉に心中を決意する久松。事情を察している久作が出てきて諭し、二人も一度は分かれることを決意しました。

 こうなった以上、ともかくも早く娘の祝言を済ませてしまおうと久作がおみつを呼ぶと、出てきたおみつは綿帽子の下の髪を落とし、首に数珠をかけて尼になっていました。自分と無理に結婚させようとしたら、久松はきっとお染と心中する。それなら、自分は身を引いて尼になるから、死なないでほしい…。

 ここで出てくるのが、「うれしかったは たった半刻」の名台詞です。

 その後、人目を避けるため、2人は別々の道で大阪へ戻ることになりました。お染を引き取りに来たお常が土産として持参した箱には久作が用立てた分のお金が入っており、その返礼に久作はお常に白梅を渡します。お染の手を引くお常が梅の枝を持っているというのは、このことを踏まえたものでしょう。そして、2人が去った後、おみつが久作にすがりついて号泣するところで舞台は幕が下りる、というのが「野崎村」のあらすじです。

 ただし、後日談としては、結局、久松とお染は心中して死んでしまいます。彼らにとっての“うれしかった”時間も、結局のところ、長続きはしなかったということになります。

 なお、今回ご紹介の1枚をはじめ、振り袖姿の女性が描かれた切手と、それにまつわる物語については、拙著『日の本切手 美女かるた』でもいろいろご紹介しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。


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