内藤陽介 Yosuke NAITO
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 神社を描いた沖縄切手
2017-05-15 Mon 11:32
 きょう(15日)は、1972年5月15日に沖縄が日本に復帰した記念日です。というわけで、日本本土と沖縄との歴史的な結びつきを示すものとして、この切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      沖縄・甘藷伝来三五〇年

 これは、1955年11月26日、米施政権下の沖縄で発行された“甘藷伝来三百五十年”の記念切手です。

 米施政権下の沖縄で正刷切手の発行が始まったのは1948年7月1日のことでしたが、切手の国名表記は“琉球”とされました。これは、“沖縄”の語が狭義には沖縄本島のみを指す言葉であったことにくわえ、琉球王国を大日本帝国に編入する際に琉球から沖縄に改称することでこの地域が日本領であることを示すために用いられていたこと、さらに、琉球という名称が戦勝国の一角を占めていた中国による命名であったことなどが総合的に考慮された結果と考えられています。

 また、当初の切手の題材は、たとえば、日中両属の時代、中国皇帝から琉球へと派遣された冊封使が乗ってくる船の御冠船をとりあげて“琉球”と中国の関係を強調したり、沖縄戦で破壊された建造物(実際に破壊したのは米軍ですが、沖縄戦は日本軍に責任があるというのが米側の主張です)や米国統治による“恩恵”として首里城址に建てられた琉球大学を取り上げるなど、“日本”に対してネガティヴな内容のものが主流を占めていました。

 ところが、1952年に対日講和条約が発効して日本が再独立を果たすと、その前後から、中国は「日本が米国の掣肘を脱して、再軍備を止め、平和産業を発展させ、米国の強めている禁輸を打破して、中国貿易を拡大するのが、日本人民のためである」と呼びかける“平和攻勢”を展開。これに対抗すべく、米国は、自らが直接統治している沖縄において分割統治のプロパガンダを展開して日本本土との離間を図るよりも、米国=沖縄=日本は一つのラインとして緊密に結びついていることを強調するようになります。

 このため、1953年にはペルリ来流100年祭が沖縄で行われ、沖縄を経由して日本を開国させたマシュー・ペリーの存在は、米国=沖縄=日本という構造が、日米関係の当初から機能していたことを象徴的に示している歴史的な先例として、大いに賞揚されることになりました。

 今回ご紹介の“甘藷伝来三百五十年”の切手も、そうした文脈に沿って発行されたものです。

 サツマイモがフィリピンから中国大陸に伝来したのは1594年とされているが、沖縄本島へは、それから約10年後の1605年、野國總管によって伝えられたとの記録があります。

 野國總管は、“野國村(現嘉手納町)出身の總管(琉球から明に朝貢する「進貢船」使節の事務長)”という意味で、1605年の時点でこの職にあった人物の本名などはわかっていません。17世紀末に書かれた『麻姓家譜』によると、「總管野國、唐土より鉢に藩薯を植えて帯来」し、その噂を聞きつけた儀間真常が總管に栽培法を教わったことで、数年後の飢饉の際に穀物の代わりにサツマイモが普及することになった旨が記されています。

 その後、1611年、琉球王・尚寧が薩摩兵の送別の宴席で甘藷を振る舞いって喜ばれたため、帰国の際に生の甘藷を贈呈したとの記録があるほか、1698年、琉球王・尚貞から甘藷を送られた種子島の島主・種子島久基が家老の西村時乗に栽培を命じ、日本本土での甘藷栽培が始まったとされています。

 さて、今回ご紹介の切手は總管を祀った野國總管神社の社殿とサツマイモを描くことによって、琉球伝来のサツマイモが日本本土に広まっていったのと同時に、日本の神道が沖縄においても大きな影響力を持っていた(いる)ことを表現しており、日本本土と沖縄の交流関係の深さを改めて示すものです。

 ちなみに、戦後日本の郵政当局は、『日本国憲法』第20条の信教の自由と政教分離原則 の関係上、特に神道関連の施設を切手に取り上げることに神経質となっており(じっさい、切手に鳥居が描かれていることに抗議して、行政監察局に切手の発売禁止勧告を求める申し立てを行った人もいました) 、今回ご紹介の切手が発行された1955年の時点では日光東照宮の陽明門を描く45円切手(1952年発行)を除くと、鳥居や社殿を描く切手などは一切発行されていません。

 米軍施政権下の沖縄では、日章旗の掲揚は原則として禁止されていましたが、そうした沖縄の切手で、日本本土ではタブー視されていた“神社”が堂々と発行されているという逆転現象は、非常に興味深いものと思われます。


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この記事のコメント
#2442 昭和の建物
昭和の建物を描いたものとしても初期なんじゃないでしょうか。
2017-05-15 Mon 13:21 | URL | 岡本悦 #mQop/nM.[ 内容変更] | ∧top | under∨
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