内藤陽介 Yosuke NAITO
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 “レズビアン”の由来となった島
2017-06-13 Tue 11:42
 きのう(12日)、エーゲ海北東のレスボス島プロマリの南11キロ、深さ約10キロを震源とするM6.3の地震が発生し、住宅が損壊・倒壊するなどの被害が出たほか、現在判明している時点で、同島の女性1人が亡くなったほか、10人が負傷したそうです。というわけで、亡くなられた方々の御冥福と負傷された方々の一日も早い御快癒をお祈りしつつ、この切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      ギリシャ・レスボス島

 これは、1912年末、レスボス島を占領したギリシャが発行した暫定加刷切手です

 レスボス島は、1462年、メフメト2世統治下のオスマン帝国に占領されて以来、約450年間に渡ってその支配下にありましたが、1912年の第一次バルカン戦争でギリシャが占領し、ギリシャ領に編入しました。レスボス島を占領したギリシャ軍は、島で使われていたオスマン帝国の切手を接収し、地元の新聞印刷所で“ギリシャ占領ミティリニ(ミティリニはレスボス島の中心都市)”を意味するギリシャ語の“Ελληνική Κατοχή Μυτιλήνης”と加刷した切手を発行しました。ただし、当時のミティリニではギリシャ通貨のドラクマは流通していなかったため、切手は、従来通り、トルコ通貨のピアストル額面で販売されています。

 さて、レスボス島といえば、紀元前7世紀末から紀元前6世紀初にかけて活動した古代ギリシャの女流詩人、サッフォーの出身地として知られています。彼女は、自らが選んだ若い娘しか入れない“学校”をレスボス島に作るとともに、様々な女性に対する愛の詩を多く残したため、生前から女性の同性愛と結び付けて語られてきました。このため、彼女の出身地である“レスボス島の”を意味する英語の形容詞、“lesbian”やそこから派生した“Lesbianism”は、女性の同性愛を意味する言葉(日本語でいう“レズビアン”)として、20世紀以降、世界各国に広まります。

 この結果、レスボス島、特にサッフォーの出身地であるエレソスは女性同性愛者の間では“聖地”として観光地になりましたが、その反面、地元ではそうした観光客を歓迎しない人も大勢います。このため、現在では、レスボス島の名に変えて、中心都市ミティリニにちなむ“ミティリニ島”の呼称を使い地元住民も多いのだとか。今回ご紹介の切手の地名表記にも、あるいは、そうした意識が働いたのかも知れません。

 自分たちの出身地または居住地が性的な用語と結び付けて語られれば、それに不快感を持つ人が多いのも当然のことで、2008年、レスボス島民を中心とするグループは、ギリシャ国内のLGBT団体、“ギリシャ・ゲイ・レズビアン連合(OLKE)”を相手どり、団体名から“lesbian”の語を削除することを求める訴訟をアテネの裁判所に起こしました。ところが、これに対して、裁判所は「島民たちがこの名称によって侮辱されたと感じる理由はない」として訴えを棄却。門前払いを食らわせています。

 そういえば、日本でも、ソープランドに相当する施設はかつて“トルコ風呂”と呼ばれていましたが、1984年、東京大学で地震学を学んでいたトルコ人留学生、ヌスレット・サンジャクリが、小池百合子(現東京都知事。当時は通訳・キャスター)に相談の上、厚生省(当時)に名称変更を訴え出たことが発端となり、同年12月19日、現在の名称“ソープランド”に改称されたということがありましたな。

 レスボス島の人たちからすれば、同島の出身者として “I am Lesbian.”と語ることが憚られるというのは、納得できなくて当然です。そうであれば、人権や反差別を主張する人たちこそ、“トルコ風呂”の先例に倣い、自ら率先して“レズビアン”やLGBTの語を使うのを止め、それに代わる用語を提案すべきだろうと思います。少なくとも、レスボス島民の苦悩に無頓着なまま、LGBTの権利のみを声高に主張し、挙句の果てに、自分たちの意見に賛同しない人たちを“差別主義者”と糾弾して回るような輩は、“人権”を隠れ蓑にした“差別の当たり屋”以外の何物でもなく、心の底から軽蔑するしかありませんな。
 
 
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 6月15日(木)16:05~  NHKラジオ第1放送で、内藤が出演する「切手でひも解く世界の歴史」の第4回目が放送予定です。今回は、6月10日に開幕したばかりのアスタナ万博にちなんで、開催国のカザフスタンにスポットを当ててお話をする予定です。みなさま、よろしくお願いします。なお、番組の詳細はこちらをご覧ください。

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