内藤陽介 Yosuke NAITO
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 おかげさまで180万PV
2017-06-19 Mon 11:24
 おかげさまで、昨日(18日)、カウンターが180万PVを超えました。いつも、閲覧していただいている皆様には、この場をお借りして、改めてお礼申し上げます。というわけで、“180”に絡んで、この切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      香港・中西(1.80)

 これは、2002年に香港で発行された“中西文化通用票(普通切手)”のうち、フォーク・ナイフと蓮華・箸を並べた1ドル80セント切手です。

 中西文化通用票は、1999年から発行されていた“香港特色景點與名勝通用票”に続く普通切手のシリーズです。東西文化の結節点という視点から、香港社会の諸相を切手上で表現しようとしたもので、1枚の切手の画面を左右に分割して、一方に西洋起源のもの、他方に中国の伝統的なものを配した統一デザインとなっており、今回ご紹介の切手では、フォーク・ナイフと蓮華・箸が並べられています。

 “食”を題材とした香港切手といえば、英領時代の1990年に発行された“世界の料理(International Cuisine)”と題する6種セットがあります。その内訳は、中華料理(蒸したイセエビ、冷菜の二種)に加え、インド料理(カバブ:串焼き)、タイ料理(プラー・プリアオワーン:魚の丸揚げに甘酢ソースをかけたもの)日本料理(寿司)、フランス料理(アスパラガスと生ハム)となっており、香港では世界のあらゆる料理が味わえることをアピールすることで、“グルメ天国”香港への外国人観光客を誘致する目的から発行されました。

 地元の広東料理のみならず、世界各地の料理を取り上げたのは、香港における“食”の多様性を表現することが一義的な目的ですが、そのことは、当然、見る者に香港社会そのものの多様性を印象づけることになります。

 1997年時点の香港社会は中国系が98パーセントと圧倒的多数を占めていたとはいえ、英国人をはじめとする欧米人、インド系(貿易商としてやってきたパル-シー教徒、グジャラート人、マルワル人、シンド人、軍事・警察要員としてやってきたシーク教徒など)、主としてメイドとして働いているフィリピン人などのエスニック・グループも社会的に無視できない存在でした。当然のことながら、これらのマイノリティと中国系との融和は香港社会にとって重要な課題となっていました。

 その真意はどうあれ、香港に“民主化”の置き土産を残していこうとした英国の香港政庁は、民主主義の前提である多様な価値観の共存を、理念ではなく、よりリアルなかたちで人々に実感させるため、“世界の料理切手”を発行し、香港社会の多様性を“食”という側面から表現しようと考えられます。

 これに対して、1997年7月以降の中国香港の切手においては、西洋の文化を取り込むことで香港の文化や社会に奥行きができていることを強調しつつも、英領時代のように、さまざまなマイノリティ集団を含むという意味での社会の多様性が強調されることはなくなります。“中西文化”という通常切手の企画そのものが、あくまでも中華世界の伝統的な文化と欧米式の文化のみを対比しており、英領時代の切手に取り上げられていたインドやタイ、日本などのマイノリティ集団の文化を示す要素が完全に排除されています。このことは、そうした中国香港当局の姿勢をはからずも露呈させたものと考えて良いでしょう。

 なお、“中西文化”の通常切手を導入するにあたって、中国香港郵政は、新切手のコンセプトを表現する例として、茶を取り上げて以下のように説明しています。

 香港の人々は中国茶とイタリアのカプチーノを同じように飲んでいます。実際、古今東西の最良のものを吸収する、こうした能力は、コーヒーと茶をブレンドした「鴛鴦」という名の香港式の飲物が人気を集めていることに典型的に見て取れます。

 ここで紹介されている鴛鴦(鴛鴦茶といわれることもある)とは、コーヒーとミルクティーをブレンドした香港独特の飲料のことです。鴛鴦は本来オシドリのことで、相性が良いとの意味から転じて、2つのものをブレンドした飲食物につける形容詞としても用いられる単語ですが、現在では上記の鴛鴦茶を指すのが最もポピュラーな用例のひとつとなっています。

 この鴛鴦茶がどのような経緯で生まれたのかは必ずしも定かではないが、おそらく、スターバックスの香港への出店が相次いだ1992年以降のことと考えられています。当時、スターバックス側は、本格的なコーヒーと西洋式の喫茶店文化が定着する機が熟したと判断したわけですが、コーヒーや紅茶をそのまま飲むと身体に悪いとの固定観念が根強かった香港では、“普洱茶とコーヒーのブレンド”などの注文が店頭で相次ぎ、そのことが、鴛鴦(茶)を生み出し、定着させることになりました。

 “中世文化”の事例として挙げられた、鴛鴦(茶)は、中国香港当局にとって、欧米の要素を貪欲に吸収しつつ独自の文化を作り上げる、中国人のバイタリティや懐の深さといったものを象徴するものとして高く評価されるべきものなのであり、そうした視点の下に作られた“中西文化”の切手が、多様性を確保するためのマイノリティの尊重よりも、圧倒的多数を占める中国系のもつ力量を誇示することに主眼を置いているのも、いわば、自然な成り行きといってもいいのかもしれません。ただし、そうした姿勢が、西側社会から評価されるかどうかは全く別の次元の話ですが…。

 なお、このあたりの事情については、拙著『香港歴史漫郵記』でもいろいろと分析してみましたので、機会がありましたら、ぜひ、ご覧いただけると幸いです。


 ★★★ NHKラジオ第1放送 “切手でひも解く世界の歴史” ★★★ 

 6月15日(木)に放送の「切手でひも解く世界の歴史」の第4回目は無事に終了しました。お聞きいただいた皆様、ありがとうございました。次回の放送は6月29日(木)16:05~の予定ですので、引き続き、よろしくお願いいたします。 

 なお、15日放送分につきましては、放送から1週間、こちらの“聴き逃し”サービスでお聴きいただけますので、ぜひご利用ください。

 ★★★ 内藤陽介 『朝鮮戦争』(えにし書房) 重版出来! ★★★ 

      朝鮮戦争表紙(実物からスキャン) 本体2000円+税

 【出版元より】
 「韓国/北朝鮮」の出発点を正しく知る!
 日本からの解放と、それに連なる朝鮮戦争の苦難の道のりを知らずして、隣国との関係改善はあり得ない。ハングルに訳された韓国現代史の著作もある著者が、日本の敗戦と朝鮮戦争の勃発から休戦までの経緯をポスタルメディア(郵便資料)という独自の切り口から詳細に解説。解放後も日本統治時代の切手や葉書が使われた郵便事情の実態、軍事郵便、北朝鮮のトホホ切手、記念切手発行の裏事情などがむしろ雄弁に歴史を物語る。退屈な通史より面白く、わかりやすい内容でありながら、朝鮮戦争の基本図書ともなりうる充実の内容。

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