内藤陽介 Yosuke NAITO
http://yosukenaito.blog40.fc2.com/
World Wide Weblog
 あすから全日展(+オーストラリア切手展)
2017-07-14 Fri 01:14
 あす(15日)から、東京・錦糸町のすみだ産業会館で全日本切手展(全日展)が開催されます。(下はチケットの画像。以下、画像はクリックで拡大されます)

      全日展2017チケット

 今回は、全国の収集家の皆さんによる競争出品に加え、ことし4月にアジア国際切手展<Melbourne 2017>で永井正保さんがナショナル・グランプリを受賞したことを称え、オーストラリア大使館のご後援の下、“オーストラリア切手展”を併催するほか、昨年の小判切手に続き、菊切手としてはFIP世界展で初めて大金賞を受賞した中川幸洋さんによる特別展示、そして、乃木2銭発行80周年にちなむ特別展示(児玉博昭さんと郵政博物館のコラボ企画です)を行います。チケットのデザインもそのことをイメージして、左側には、中川コレクションの名品として知られる菊切手1円の銘付田型(下の画像)をデザインしました。

      菊1円銘付田型

 明治30(1897)年、逓信省は普通切手のデザイン一新を計画します。

 それまでの小判切手は、明治9(1876)年以来、断続的に額面を追加して発行してきたため、デザインが不統一なうえ、途中で刷色が変更されるものもあるなどして、現場の郵便局員の間では額面を見誤る例が少なからずあったようです。また、急激な技術水準の向上に比べて、低いレベルの技術のままで作られた切手では、偽造のおそれも出てきました。

 逓信省は、切手デザインの一新に乗り出した理由として、公式にはこのように説明しています。

 しかし、こうした技術的な面に加え、明治28(1895)年の三国干渉を経て、日本社会全体に国粋主義的な傾向が急速に広がっていく中で、明治10年代の欧化主義を象徴するかのような切手のデザインに対する不満が広がっていたという時代背景があったことも見逃せません。じっさい、当時の逓信大臣・末松謙澄は小判切手のデザインに対して大いに不満を持っていました。

 末松謙澄は、安政2年8月20日(1855年9月30日)、豊前国前田村(現・福岡県行橋市)生まれ。地元の私塾・水哉園で漢学と国学を学んだ後、明治4(1871)年に上京し、翌明治5(1872)年、東京師範学校(現・筑波大学)に入学しました。しかし、学校生活に不満を感じてすぐに中退。明治7(1874)年、東京日日新聞社に入社し、笹波萍二のペンネームで社説を執筆するようになります。

 明治8(1875)年、東京日日新聞社の社長・福地源一郎の仲介で伊藤博文の知遇を得て官界入りすると、朝鮮との開国交渉に随行し、日朝修好条規の起草に参加。明治10(1877)年の西南戦争の際には山縣有朋の秘書官として西郷隆盛宛の降伏勧告状を起草しました。その後、国費で英国に留学。留学中、「義経=ジンギスカン説」を唱える論文『義経再興記』を英国で発表したり、『源氏物語』を英訳したりするなどの文筆活動を行っています。

 明治19(1886)年、鹿鳴館の時代に帰国。明治22(1888)年に伊藤博文の二女・生子と結婚。翌明治23(1889)年の第1回衆議院議員総選挙で福岡県から当選して衆議院議員となり政界入りし、明治25(1892)年、第2次伊藤内閣が成立すると法制局長官に就任。明治28(1895)年に男爵となり、翌明治29(1896)年、貴族院議員となりました。そして、明治31(1898)年、第3次伊藤内閣が発足すると逓信大臣として初入閣を果たしています。

 もともと漢学・国学の素養があり、英国での留学を経て、より“日本人”であることを強く意識するようになった末松は、帰国して目の当たりにした鹿鳴館の狂騒を決して快くは思わなかったでしょうし、三国干渉後の国粋主義的な風潮とは同調しやすい資質の持ち主であったと思われます。

 そうした大臣の意向を反映したのでしょう。普通切手のデザインを一新するにあたって、印刷局と逓信省との協議の結果、まとめられた基本方針は、
 ① 切手に欧文を入れるのは独立国の体面上妥当ではない
 ② 大日本帝国の切手であることを示すには菊花紋章のみで十分
 ③ 小判切手に見られる“IMPERIAL JAPANESE POST”の表示は絶対に外す
 ことを骨子としてまとめられました。

 なお、②の菊花紋章のみで十分という項目は、あるいは、英国に留学していた末松が、現地で日常的に目にしていた英国切手には国名の表示がなく、ヴィクトリア女王の肖像のみで英国の切手であることを示していたのを念頭に置いてのものだったのかもしれません。ただし、英国の切手に国名の表示がないのは、あくまでも、英国が世界最初の切手発行国だからであって、それをそのまま日本が真似ようというのは、やはり無理がありました。

 新普通切手の基本方針が決まると印刷局の斉藤知三が原図を作成し、原版を彫刻します。

 新たなデザインは、まず、明治31(1898)年12月1日に発行された1銭葉書の印面として登場。ついで、明治32(1899)年1月1日、新デザインの普通切手の発行が始まりました。最初に発行されたのは、2銭切手、4銭切手、10銭切手の3額面で、以下、計18種類の切手が発行されています。

 新しい普通切手は、デザインの基本的な構造として、中央に大きく菊花紋章を描いていることから、“菊切手”と総称されています。

 菊切手のデザインは、額面の表示以外、文字は全て漢字で、小判切手に見られる英文の国名表示はありません。また、欧化主義の時代に発行が開始された小判切手では、西洋の交通・通信のシンボルである車輪、スクリュー、気球などが入れられていましたが、菊切手では、それらは日本古来の駅鈴に置き換えられています。

いずれにせよ、小判切手と比べると、“日本”を前面に押し出したデザインの切手であり、日露戦争に向かいつつある、当時の日本社会全体の空気が切手上にも影を落としているといってよいでしょう。

 今回ご紹介の1円切手は、1899年10月1日、第3次発行分の1枚で、菊切手としては最高額面。中央の菊花紋章のみならず、その他の部分も白抜きで全て浮き出しのエンボス加工が施されているという凝ったつくりになっています。

 菊花紋章をエンボスにしている例は、これ以前にも1888年に発行の新小判切手の1円切手の例がありますが、新小判切手が中央の紋章部分のみがエンボスで輪郭がないのに対して、菊切手の場合は花弁の一つずつが独立して輪郭が描かれ、それにあわせてエンボスが施されており、印刷物としてはかなり緻密な仕上がりです。

 紋章の周囲には国名と鹿島神宮の古鈴が白抜きで描かれ、外側には植物の文様と額面表示が白抜きで描かれ、それらもエンボス加工が施されています。なお、切手に描かれた古鈴は、もともと、鹿島正等寺に伝わっていたもので、後に鹿島神宮の所蔵となったもの。切手の発行時には駅鈴の一種と考えられており、それゆえ、切手にも取り上げられたのですが、その後の研究によって、駅鈴ではないことが判明しています。

 さて、今回の全日展で展示予定の中川幸洋さんのコレクションでは、菊切手のコレクションとしては、現在、世界最高峰と評価されているものです。ぜひ、この機会を逃さず、会場にお越しいただけると幸いです。
 

 ★★★ 全日本切手展のご案内  ★★★ 

 7月15-17日(土ー月・祝) 東京・錦糸町のすみだ産業会館で全日本切手展(全日展)ならびにオーストラリア切手展が開催されます。詳細は、主催団体の一つである全日本郵趣連合のサイトのほか、全日本切手展のフェイスブック・サイト(どなたでもご覧になれます)にて、随時、情報をアップしていきますので、よろしくお願いいたします。

      全日展2017ポスター

 *画像は全日展実行委員会が制作したチラシです。クリックで拡大してご覧ください。

 ことしは、香港“返還”20周年ということで、内藤も昨年(2016年)、ニューヨークの世界切手展<NEW YORK 2016>で金賞を受賞した“A History of Hong Kong(香港の歴史)”をチャンピオンクラスに出品します。また、会期中、16日(日)15:30~、展示解説も行いますので、皆様よろしくお願いします。


 ★★★ 内藤陽介 『朝鮮戦争』(えにし書房) 重版出来! ★★★ 

      朝鮮戦争表紙(実物からスキャン) 本体2000円+税

 【出版元より】
 「韓国/北朝鮮」の出発点を正しく知る!
 日本からの解放と、それに連なる朝鮮戦争の苦難の道のりを知らずして、隣国との関係改善はあり得ない。ハングルに訳された韓国現代史の著作もある著者が、日本の敗戦と朝鮮戦争の勃発から休戦までの経緯をポスタルメディア(郵便資料)という独自の切り口から詳細に解説。解放後も日本統治時代の切手や葉書が使われた郵便事情の実態、軍事郵便、北朝鮮のトホホ切手、記念切手発行の裏事情などがむしろ雄弁に歴史を物語る。退屈な通史より面白く、わかりやすい内容でありながら、朝鮮戦争の基本図書ともなりうる充実の内容。

 本書のご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。
スポンサーサイト

別窓 | 日本:明治 | コメント:0 | トラックバック:0 | top↑
<< きょうからオーストラリア切手展(+全日展) | 郵便学者・内藤陽介のブログ |  南極で1兆トン以上の氷山分離>>
この記事のコメント
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
| 郵便学者・内藤陽介のブログ |
copyright © 2006 郵便学者・内藤陽介のブログ all rights reserved. template by [ALT-DESIGN@clip].
/