内藤陽介 Yosuke NAITO
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 クルド人自治区で住民投票
2017-09-25 Mon 11:48
 イラク北部のクルド人自治区で、きょう(25日)、同国からの分離独立の可否を問う住民投票が行われます。というわけで、今日は、この切手です(画像はクリックで拡大されます)

      クルディスタン(2012年)

 これは、今回、住民投票が行われるイラクのクルド人自治政府が2012年に発行した切手で、クルドの少女が取り上げられています。

 クルド人は、トルコ・イラク北部・イラン北西部・シリア北東部等にまたがるイラン系の民族集団で、人口は2500-3000万人。独自の国家を持たない民族集団としては世界最大規模とされています。

 このうち、イラク国内のクルド人に関しては、バアス党政権下の1970年、自治区が設置されましたが、イラン・イラク戦争中の1985年から88年にかけて、イラク東部のサルダシュトやハラブジャなどでは、主としてクルド系住民がイラン側に協力したとして、サッダーム・フサイン政権はマスタードガス、サリン、VXガスなどの化学兵器をクルド人自治区で使用し、多くの住民を殺害。こうしたこともあって、1991年に湾岸戦争が勃発すると、クルド人はイラク政府に対して武装蜂起しました。

 その後、イラクに進攻した多国籍軍はイラク北部の北緯36度以北に飛行禁止空域を設けてクルド人を保護。これにより、イラク北東部のアルビール県、ドホーク県、スレイマニヤ県、ハラブジャ県の四県にまたがる“クルディスタン地域”が設定され、クルド人は自治権を獲得し、1992年には反体制派の大同団結集会も行われました。そして、それに伴い、自治区独自の旗が制定され、独自の通貨と切手の発行も開始されています。

 ところが、クルディスタン地域の自治区内では、二大政党であるクルド民主党とクルド愛国同盟の対立が激しく、1994年以降、大規模な戦闘が発生し、クルディスタン地域は事実上の分裂状態になりました。このうち、クルド愛国同盟が反バアス党を優先してイランの支援を受けたことに対抗し、クルド民主党はイラク中央政府と結託。1996年8月には、イラク中央政府の支援を受けたクルド民主党が対立勢力を放逐し、クルディスタン地域は再びバアス体制に取り込まれました。

 2003年、イラク戦争によってサッダーム政権が崩壊すると、クルド人は米軍の駐留を歓迎。2005年には、イラク移行政府の民族バランスに配慮して、クルド愛国同盟を率いたジャラール・タラバーニーが大統領に選出されたほか、翌2006年には連邦制の下での自治政府が発足するなど、政治的にはクルドに対する宥和政策が進められました。

 その一方で、クルド人自治区の位置するイラク北部は石油資源の豊富な地域であったことから、特に、一大油田地帯であるキルクークの管轄権をめぐって、イラク中央政府とクルド自治政府が対立。いったんは、キルクークの帰属については、2007年末までに住民投票を行って決定するとの合意が成立したものの、その実施方法などをめぐって対立が再燃し、住民投票は実施されないままとなっていました。

 その後、キルクークはバグダードのイラク中央政府が統治してきたものの、2014年、“イスラム国”を自称する過激派組織のダーイシュがイラク北部で勢力を拡大し、キルクークに迫ると、イラク軍・治安部隊は撤退を余儀なくされました。これに代わって、キルクークを防衛したのがペシュメルガを中心とするクルド人部隊で、以後、クルド自治政府はキルクークを実効支配を続けており、豊富な石油資源を背景に海外からの投資を呼び込んで、自治区内の経済成長に成功しました。

 こうした状況に加え、湾岸戦争以来25年にも及ぶ自治の影響もあって、社会的・文化的にも自治区内のクルド人のイラク離れが進んだこともあって(たとえば、30歳以下のクルド人の9割はアラビア語を話せないそうです)、クルドの独立傾向は強まり、今回の住民投票にいたったというわけです。

 今回の投票では、独立賛成が多数を占める公算のは確実視されています。自治政府としては、投票後、直ちに独立するわけではなく、民意を受けた形で中央政府との交渉に臨み、2年以内の独立を目指す考えを示していますが、イラク中央政府のみならず、トルコやイランなどクルド人を抱える近隣諸国は国内のクルド人問題への影響を恐れ、投票が行われれば対抗措置を取ると警告。米国や国連安全保障理事会も投票の実施に反対しており、今後の新たな火種となることが懸念されています。

 * 2005年6月からスタートしたこのブログですが、毎日1回ずつ更新していたら、今日の記事でちょうど4500回目になりました。日頃、このブログを応援していただいている皆様には、あらためて、この場をお借りしてお礼申し上げます。


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