FC2ブログ
内藤陽介 Yosuke NAITO
http://yosukenaito.blog40.fc2.com/
World Wide Weblog
 ハマース、ファタハと和解合意
2017-10-13 Fri 10:47
 パレスチナ・ガザ地区を実行支配するハマース政府は、昨日(12日)、カイロでパレスチナ自治政府を率いるファタハと共同会見を行い、今年12月1日までにハマースがガザ地区のすべての行政権限を自治政府に返還することで合意したと発表しました。というわけで、きょうはこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      ハマース政府最初の切手FDC

 これは、2009年3月21日、ハマース政府として最初に発行された“アラブ文化首都”の切手の初日カバーです。

 2004年11月11日、長年にわたってPLOを率いてきたアラファトが75歳で亡くなり、マフムード・アッバースが後継のPLO議長・自治政府大統領に就任します。

 2005年2月3日、アッバースは、さっそくシャルム・シェイクでイスラエル首相のアリエル・シャロンと会談し、各地で頻発していた武力衝突の停戦に合意。中断していた中東和平ロードマップ交渉の再開に意欲を示しました。

 こうした穏健な現実主義者としてのアッバースの姿勢は、ヨルダン川西岸地区の一般国民の間では一定の支持を得ましたが、ガザ地区を基盤とするイスラム原理主義組織のハマースなどは“イスラエル寄り”のアッバースに対して露骨な敵意と不信感を向け、テロを継続していました。

 そうしたなかで、翌2006年1月25日に投票が行われたパレスチナ評議会選挙では、アラファト時代のPLO幹部の汚職腐敗に対する一般市民の反感もあって、定数132議席の過半数にあたる76議席をハマース系の候補者が獲得。選挙結果を受けて、2月16日、ハマースは候補者名簿の1位にランクされていたイスマーイール・ハニーヤを首相候補として推薦したため、アッバースもこれを受け入れざるを得ず、3月29日、ハニーヤ内閣が発足しました。

 ハニーヤは首相就任演説で「イスラエル国家を承認せず、武力闘争路線を継続する」と宣言。なんとかしてロードマップ交渉を再開したい大統領のアッバースに対して冷水を浴びせかけます。イスラエル側も態度を硬化させ、6月30日、ハマース過激派が拘束しているイスラエル兵士ギラド・シャリートの無傷での即時解放を要求。要求が受け入れられなければ、ハニーヤを暗殺すると表明しました。また、PLO主流派のファタハとハマースの間でも流血を伴う衝突が頻発するようになり、ハニーヤを含むハマースのガザ地区の政治指導者は次々と地下に潜伏します。

 こうした中で、2006年12月14日、首相として初の外遊から帰国しようとしたハニーヤが、ラファフの国境検問所でエジプトからガザへの国境通過を拒否される事件が発生。このとき、ハニーヤは国外からの自治政府への寄付金として推定3000万ドルの現金を所持していましたが、イスラエル政府はその寄付金を持ち込まないという条件で、ハニーヤの国境通過を許可すると発表しました。

 ところが、緊迫した空気の中で、検問所の現場では、ハマースの戦闘員とパレスチナ大統領警護隊との偶発的な銃撃戦が発生。さらに、ハニーヤが国境を通過しようと試みた際、彼の護衛の一人が銃撃されて死亡、ハニーヤの長男も負傷してしまいます。この事件を機に、ファタハとハマースの対立はエスカレートし、双方の武装集団による襲撃事件が頻発するようになりました。

 このため、両者の対立を解消して、ともかくもハマース、ファタハの連立政権を実現するため、2007年2月15日、ハニーヤ内閣はいったん総辞職したうえで、3月18日、あらためてハニーヤを首班とする連立内閣を組織するとの妥協が図られます。

 しかし、その後も武力衝突は一向に収まらず、6月11日には、ハマースがガザ地区を占拠したため、6月14日、もはやハマースとの関係修復は不可能と判断したアッバースが非常事態宣言を発令。ハニーヤを解任し、ハマースによるガザの統治は非合法なものであるとして、6月17日、元世界銀行副総裁で自治政府での蔵相経験のあるサラーム・ファイヤードを首相に任命し、ハマースを除外した非常事態政府の樹立を宣言します。

 これに対して、ハニーヤは解任を拒否し、ハニーヤ内閣こそパレスチナの正当政府であると主張。“パレスチナ”はPLO/ファタハの支配する西岸地区と、ハマース支配下のガザ地区に、事実上、分裂しました。

 こうして“パレスチナ”が分裂した後も、郵便に関しては、当初は西岸地区のパレスチナ郵政が従前どおり、西岸地区とガザ地区の郵便事業を統一的に扱っており、両者は共通の切手を使用していました。

 こうした状況の下で、2009年、“アラブ文化首都 エルサレム”のイベントが行われます。

 アラブ文化首都は、欧州文化首都に倣い、ユネスコとアラブ連盟の主催の下、アラブ諸国の中から一都市を選んで“アラブ文化首都”に指定し、一年間を通してさまざまな芸術文化に関する行事を開催することで、加盟国の相互理解を深めようというものです。

 2009年のアラブ文化首都は、各国持ち回りの順番で、パレスチナから選ばれることになっていましたが、大統領のアッバースは自治政府の支配下にあるベツレヘムや首都のラマッラーではなく、和平プロセスを進展させるための契機とすべく、あえてエルサレムを提案。アラブ連盟とユネスコもこれを受け入れていました。

 “アラブ文化首都 エルサレム”のキックオフ・イベントは、当初、2009年1月に行われる予定でしたが、イスラエルとハマースの戦闘により延期され、停戦後の3月21日、自治政府支配下のベツレヘムで行われました。当初の計画では、エルサレム、ガザ、ナゼレ、そしてレバノン領内のマール・エリアス難民キャンプの5ヵ所で同時にイベントを開催することも計画されましたが、イスラエル政府はイスラエル領内での“アラブ文化首都”と銘打ったイベントを全面禁止し、神殿の丘/ハラム・シャリーフへの道路を封鎖。エルサレムとナゼレのみならず、多くの関連イベントは中止を余儀なくされます。

 これに対して、ガザ地区では、ファタハ政府によるベツレヘムでのイベント開催日の3月21日に先んじ、ハマースがファタハに無断で独自にイベントのロゴマークを制作し、3月17日、ファタハを無視して独自に記念行事を開催。自分たちこそがパレスチナの正統政権であると主張し、ファタハ政府を挑発しました。

 また、ハマース政府は、ファタハ政府が“アラブ文化首都”の記念切手を用意していないことに目をつけ、西岸地区とは別に、ロゴマークを描く独自の記念切手を発行。記念切手に取り上げられたロゴマークは、モスクとミナレットを図案化した象徴的なデザインで、今回ご紹介のような初日カバーも制作されました。

 なお、この切手は、ハマース政府が、従来のファタハ政府の郵政機関とは別に、独自に発行した最初の切手となり、以後、パレスチナでは、西岸地区とガザ地区で別々の切手が発行・使用される状況が続いていました。

 今回、ハマースとファタハの間で成立した和解合意によれば、ハマースは、ガザ地区とイスラエルとの境界で人や物資の出入りを管理する権限は11月1日までに、ガザ地区のすべての行政権限は12月1日までに、それぞれ自治政府に返還することになっており、これが実現されれば、ガザ地区におけるハマースの郵政活動も停止され、独自の切手が新規に発行されることもなくなります。その場合、ハマース政府がこれまで発行してきた切手について、どのような処理が行われるのか、僕としては大いに興味があるところです。

 もっそも、ファタハとハマースの間では、過去にも和解に向けた合意が結ばれたものの、実施段階では頓挫していますので、今回の合意もその轍を踏む可能性は大いにあります。

 なお、パレスチナ分裂後のファタハ、ハマース双方の切手と郵便については、拙著『パレスチナ現代史 岩のドームの郵便学』でもまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。


★★ NHKラジオ第1放送 “切手でひも解く世界の歴史”  次回は19日!★★

 10月19日(木)16:05~  NHKラジオ第1放送で、内藤が出演する「切手でひも解く世界の歴史」の第10回が放送予定です。今回は、10月18日が米国によるアラスカ領有150年の記念日ということで、アラスカを買った米国務長官、ウィリアム・スワードにスポットを当ててお話をする予定です。なお、番組の詳細はこちらをご覧ください。


★★★ トークイベントのご案内  ★★★ 

 11月4日(土) 12:30より、東京・浅草で開催の全国切手展<JAPEX>会場内で、拙著『パレスチナ現代史 岩のドームの郵便学』刊行記念のトークイベントを予定しております。よろしかったら、ぜひ遊びに来てください。なお、詳細は主催者HPをご覧いただけると幸いです。


★★★ 世界切手展<WSC Israel 2018>作品募集中! ★★★

  明年(2018年)5月27日から31日まで、エルサレムの国際会議場でFIP(国際郵趣連盟)認定の世界切手展<WSC Israel 2018>が開催される予定です。同展の日本コミッショナーは、不詳・内藤がお引き受けすることになりました。

 現在、出品作品を11月10日(必着)で募集しておりますので、ご興味がおありの方は、ぜひ、こちらをご覧ください。ふるってのご応募を、待ちしております。


★★ 内藤陽介の最新刊 『パレスチナ現代史 岩のドームの郵便学』 ★★

      パレスチナ現代史・表紙 本体2500円+税

 【出版元より】
 中東100 年の混迷を読み解く! 
 世界遺産、エルサレムの“岩のドーム”に関連した郵便資料分析という独自の視点から、複雑な情勢をわかりやすく解説。郵便学者による待望の通史!

 本書のご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。

スポンサーサイト

別窓 | ハマース政府 | コメント:0 | トラックバック:0 | top↑
<< 鉄道の日 | 郵便学者・内藤陽介のブログ |  大韓帝国120年>>
この記事のコメント
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
| 郵便学者・内藤陽介のブログ |
copyright © 2006 郵便学者・内藤陽介のブログ all rights reserved. template by [ALT-DESIGN@clip].
/