内藤陽介 Yosuke NAITO
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 イスラエルの首都
2006-08-30 Wed 00:48
 中米のコスタリカとエルサルバドルが、在イスラエル大使館をエルサレムからテルアビブに移転するのだそうです。これで、イスラエルが“首都”と主張しているエルサレムには、外国大使館がひとつもなくなることになりました。

 というわけで、こんなモノを引っ張り出してきました。(画像はクリックで拡大されます)

 第3次中東戦争FDC

 これは、第3次中東戦争の勝利を記念してイスラエルが発行した切手3種を貼って、テルアビブからライプツィヒ(当時は東ドイツ)宛に差し出されたものの、「平和維持に反する意図をもつ切手」が貼られているとして、差出人戻しとなったカバー(封筒)です。なお、付箋の文章は、万国郵便連合の公用語であるフランス語で書かれています。

 1967年6月の第3次中東戦争はイスラエル側の圧倒的な勝利で終わり、イスラエルの占領地は一挙に戦前の3倍に拡大します。昂揚した雰囲気の中で、戦争終結後の8月16日、イスラエル郵政は戦勝の記念切手を発行。その内訳は、①ダビデの星を背景にオリーブの枝と剣を描く15アゴロット切手(イスラエル軍の勝利を示す)、②チラン海峡を航行するイスラエル船を描く40アゴロット切手(アカバ湾の航行権確保を示す)、③「嘆きの壁」を描く80アゴロット切手(東エルサレムの占領を示す)の3種でした。

 しかし、この戦争がイスラエル側の先制奇襲攻撃ではじまったことから、イスラエルによる占領地拡大の正統性については、アラブ諸国はもとより、社会主義諸国や中立諸国なども懐疑的で、1967年11月の国連安保理では、占領地域からのイスラエル軍の撤退を要求する決議が採択されます。しかしながら、現在なお、イスラエル側が占領地からの完全撤退を履行していないのは周知の通りです。

 今回のカバーは、こうした事情から、第3次中東戦争でのイスラエルの“勝利”に抗議する意図を示すため、東ドイツ郵政が問題の記念切手の有効性を認めず、差出人戻しとしたものです。

 第3次中東戦争後、エルサレム全域を支配下に置いたイスラエルは、テルアビブからエルサレムへの“遷都”を宣言します。しかし、上記のような理由で、国際社会は、イスラエルによる東エルサレムの占領を認めておらず、必然的に、エルサレムを“首都”とするイスラエル側の主張も認めていません。このため、在イスラエルの外国大使館は、従来どおり、テルアビブにおかれるのが慣例となっています。

 今回、エルサレムからテルアビブに大使館移転に関して、エルサルバドル外務省は8月25日の声明で「レバノン停戦後の地域安定や、現在の中東情勢を考慮した措置」だと説明していますが、上記のような事情を考えれば、むしろ遅きに失した判断というほうが妥当なのかもしれません。

 なお、このカバーとその周辺をめぐっては、今年3月にちくま新書の一冊として上梓した『これが戦争だ!』でもページを割いて触れていますので、ご興味をお持ちの方はご覧いただけると幸いです。
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この記事のコメント
#329 ユダヤ人とドイツ語
 「中東の誕生」に紹介されているカバーですね。イスラエルからDDRに宛てて出しているところをみると、第三帝国時代にドイツからパレスチナに移住したユダヤ人がドイツ時代の友人に出した手紙かな、と気になっています。ドイツと絶縁したユダヤ人が多い、と聞きますから。
 ところで、「中東の誕生」の146ページの下に掲載されたカバーに印刷されたヘルツルの一節はドイツ語でも印刷されていますが、当時のイスラエルではドイツ語を公の場で使用することが禁じられていたはずなのに、ヘルツルの原文だから使ったのかな、と不思議な気がします。ドイツ語はヒトラーの言葉であっても、やはりヘルツルが使った言葉だからでしょうか。
2006-09-25 Mon 11:20 | URL | 古田護 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
 古田護様
 ご指摘のカバーに関しては、1948年5月14日にイスラエル国家が独立宣言を行う前に作られたものなので(カバーの消印は5月6日です)、イスラエル国家によるドイツ語禁止に引っかからなかったものと思われます。もともと、業者筋が作ったフィラテリックカバーですし、やっぱり、ヘルツルの言葉に関しては、オリジナルで書かないと“売れない”と言う事情もあったんでしょうね。
2006-09-26 Tue 11:55 | URL | 内藤陽介 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
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