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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手歳時記:筍
2018-04-11 Wed 02:35
 公益財団法人・通信文化協会の雑誌『通信文化』2018年4月号ができあがりました。僕の連載「切手歳時記」は、今回はこの1点を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      近代美術・筍

 これは、1981年6月18日に発行された近代美術シリーズ第10集のうち、福田平八郎の「筍」を取り上げた1枚です。

 筍と日本人のかかわりは古く、『古事記』には、イザナギノミコトが亡き妻のイザナミノミコトを追って黄泉の国を訪ねたものの、彼女の腐乱した体を見て現世へと逃げ帰ろうとする場面があります。その際、イザナギが追手の黄泉醜女をかわすため、髪に刺していた櫛を投げつけたところ、櫛は筍に変わり、醜女が筍を食べている間に現世へと逃げおおせたという物語が伝えられています。

 『古事記』が編まれた奈良時代には、まだ孟宗竹は日本に伝えられていないので、おそらく、醜女が生のまま丸かじりにしていたのは、孟宗竹よりも旬の遅い破竹もしくは真竹の筍だったと思われます。

 現在、筍として好まれている孟宗竹は、中国・三国時代の呉の国で孫権に仕えた孟宗(271年没)が、病床にあった母親に好物の筍を食べさせようと、真冬の竹林で雪中の筍を掘り出してきたという故事にちなんで命名されたものです。

 わが国に伝来してきた由来については、①平安時代の819(弘仁10)年、唐への留学から帰朝した道雄僧都が現在の京都府長岡京市に海印寺寂照院を創建した際、大陸から持ち帰った孟宗竹を伝えたことを起源とする説(寂照院の境内には「日本孟宗竹発祥の地」の石碑があります)、②江戸時代の初期、明から渡ってきた隠元禅師が、1661(寛文元)年、宇治山田に黄檗山萬福寺を開いた際、孟宗竹を持込み、やがて西山地域で定着したという説、などが広く知られています。

 いずれにせよ、孟宗竹は江戸時代には日本の春の味覚として定着しましたが、なかでも、京都南部、乙訓の孟宗竹の筍は最高級の白子筍に代表される“京たけのこ”として有名です。

 乙訓では、前年の晩秋から初冬にかけて、老いた竹を間引いたうえで、藁を竹藪一面に敷き詰める“敷わら”を行い、その上から良質の粘土を敷く“置土”をしたうえで、3月中旬から4月下旬にかけて、“ほり”と呼ばれる独特の器具を使って、軟らかい筍を明け方近くに掘ります。明け方に収穫を行うのは、空気に触れ、光にあたると、筍が硬くなるためです。

 見慣れた人だと、朝掘りの筍とそうでないものは見た目でも区別がつくのだとか。すなわち、朝掘りの筍の皮は毛で覆われていて、数時間前まで地面の土の中に埋もれていたのがよく分かるぐらい、土を含んでしっとりと黒く濡れているのだそうです。

 今回ご紹介の「筍」の切手を最初に見たとき、僕は、この絵の筍は皮が茶色ではなく、黒々としていることを不思議に思ったのですが、どうやら早朝、地面から頭を出したばかりの様子を描いたということなのでしょう。

 ちなみに、この絵の作者で日本画家の福田平八郎は、1892年、大分県大分市生まれ。画家を志して京都に出て、1918年、京都市立絵画専門学校を卒業しました。以後、1974年3月22日(ちょうど筍の初物の季節ですね!)に亡くなるまで、京都を拠点に活動していました。だから、この切手の筍も、京たけのこをモデルにしていたと見るのが自然なように思われます。

 なお、この作品は、終戦後まもない1947年の第3回日展に出品されましたが、福田は〆切りの数日前に訪ねてきた友人に完成間近の「筍」を見せながら、「もっと黒く、もっと黒く塗らねば」と語っていたそうです。福田としては、朝掘りの筍の質感を再現したかったということなのかもしれませんね。


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