内藤陽介 Yosuke NAITO
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 スプートニクとガガーリンの闇(8)
2018-06-05 Tue 02:06
 ご報告がすっかり遅くなりましたが、4月25日、『本のメルマガ』第679号が配信されました。僕の連載「スプートニクとガガーリンの闇」は、前回に続き、スプートニク1号および2号を題材に、国際地球観測年の期間中に東側諸国で発行された切手を紹介していますが、今回はチェコスロヴァキアについて取り上げました。その記事の中から、この1点をご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)

      チェコ・ラジウム記念印はがき

 これは、ヤーヒモフ(ドイツ語名ヨアヒムシュタール)でのウラン抽出100周年の記念標語印が押された葉書です。今回は、チェコのウランとソ連の宇宙開発という話でしたので、その“チェコのウラン”に絡めて使ったマテリアルです。

 チェコスロヴァキアでは、1948年2月の政変で共産党が実権を掌握。同年6月、チェコスロヴァキア共産党の創設メンバーだったクレメント・ゴットワルトが大統領に就任します。

 ゴットワルトは純然たるスターリン主義者で、すべての生産設備を国有化し、農業集団化を強行しただけでなく、議会制度を完全に放棄し、体制に批判的な人物は容赦なく粛清しました。1953年3月14日、スターリンの葬儀から帰国して5日後に亡くなったのは、“小スターリン”として本家のコピーに徹しきった彼の生涯を象徴するような幕引きだったといえましょう。

 ゴットワルトの死後、共産党第一書記に就任したアントニーン・ノヴォトニーはゴットワルトの路線を継承しつつ権力基盤を固め、1957年には大統領職も兼務しました。

 ときあたかも1956年2月のフルシチョフによるスターリン批判を機に東欧諸国ではソ連支配への反発が強まっており、同年10月には隣国ハンガリーで大規模な反ソ暴動(ハンガリー動乱もしくはハンガリー1956年革命)が発生しましたが、ノヴォトニーは国内の反ソ世論を封じ込めることに成功。ソ連の軍事介入を積極的に支持しました。

 こうした状況の下で、1957年10月、ソ連が世界最初の人工衛星、スプートニク1号の打ち上げに成功すると、チェコスロヴァキア国内では、「スプートニク号の仕組みは?」という質問に対して「1.チェコのウラン、2.ドイツの技術、3.ソ連の犬」と応えるという共産圏ジョークが流行します。

 チェコ・ボヘミア地方のヤーヒモフ(ドイツ語名ヨアヒムシュタール)は、神聖ローマ帝国マクシミリアン2世統治下の16世紀以来、銀山の開発が行われていましたが、当初から、銀以外にも、輝く黒い鉱物の存在が知られていた。それらは“ピッチブレンド”と呼ばれており、鉱山労働者に健康被害をもたらす一方で、関節炎などの病気の治療にも使われていました。このピッチブレンドから、1789年、化学者のマルティン・クラプロートが新しい元素を抽出し、天王星(ウラヌス)を発見したヴィルヘルム・ハーシェルに敬意を表して、“ウラン”と命名します。

 1938年、ドイツがチェコスロヴァキアを併合すると、ヤーヒモフ鉱山もドイツ領となり、同年、オットー・ハーンがここから産出されたウランの研究をもとに、ウランの核分裂を発見。ヨアヒムシュタールは、原爆開発の観点から、注目を集めます。

 第二次大戦後、チェコスロヴァキアはソ連の衛星国となり、1946年以降、ヤーヒモフ鉱山で生産されるウランは、すべてソ連に輸出され核開発及び原子力発電所用核燃料として使用されていました。

 さて、実際のスプートニク1号の打ち上げに使われたR7ロケットの燃料は液体酸素とケロシン(石油を分留して作られる液体の炭化水素。ナフサよりも重く軽油よりも軽い)であって、チェコのウランが重要な役割を果たしたわけではありません。しかし、ノヴォトニー政権は事実と異なるジョークが流布していても、あえて訂正しませんでした。それにより、自分たちが東側諸国の“優等生”としてソ連の宇宙開発を支えており、自分たちに敵対する者に対してはソ連によって鉄槌が下されるであろうことを暗示させる効果を狙ったのです。

 ただし、ノヴォトニー体制下での硬直化した国家運営や西側諸国との経済格差の拡大は、次第に、チェコスロヴァキア国民の不満を鬱積させ、1962年5月1日には、プラハ大学の学生が「我々はスプートニクをもっているが、肉をもっていない。我々はスプートニクより肉が欲しい」とのスローガンをかかげてメーデーに参加しています。これに対して、ノヴォトニーは、学生たちの要求を徹底的に弾圧。その後も“プラハの春”が始まる1968年1月まで党第一書記・大統領としてチェコスロヴァキアの“小スターリン”の座を維持し続けました。

 なお、毎月25日に配信の「本のメルマガ」での僕の連載、「スプートニクとガガーリンの闇」ですが、5月は、イスラエル出張中ということで1回お休みをいただきました。次回は、6月25日配信号での掲載になりますので、あしからずご了承ください。


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