内藤陽介 Yosuke NAITO
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 キルギスで反“誘拐婚”デモ
2018-06-07 Thu 00:12
 きのう(6日)、キルギスの首都ビシュケクで“誘拐婚(アラ・カチュー)”に抗議する大規模なデモが行われました。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

      キルギス・エレチェーク

 これは、2012年にキルギスで発行された既婚女性の被り物、“エレチェーク”の切手です。なお、この切手に描かれている女性が誘拐婚によって結婚したのか否かは定かではありません。

 キルギスは男女を問わず帽子をかぶる文化が生活に深く浸透していますが、特に、女性に関しては、人口の75%を占めるムスリム、20%を占めるキリスト教正教会の信徒の間では、いずれも、日常生活において髪を人目にさらすべきではないとされています。
 
 このうち、既婚女性が被るエレチェークは、タキヤと呼ばれるヘルメット状でつばのない小さな帽子をベースに頭巾とターバンをしっかりと巻き、外からは頭髪を完全に隠す構造になっていますが、地域などによりさまざまなヴァリエーションがあり、2013年からはその保護・継承プロジェクトが行われています。

 さて、キルギス語で“掴んで逃げる”を意味する“アラ・カチュー”は、辞書的には「若い男性が友人たちと共に女性を説得し、あるいは力づくで誘拐し、親族の待つ家まで連れていくこと」で、男性側の親族の家に連れて行かれた女性は結婚を承諾するまで、幽閉・監禁され、説得を受け続けます。そのプロセスについては、双方に相手との結婚の意思があり、形式的な“儀式”の場合もないではないのですが、その一方で、女性の意思を完全に無視し、結婚を拒む女性に対する暴行(性的暴行を含む)が行われることも珍しくありません。

 また、人口の多数派を占めるムスリム社会では、女性の処女性が結婚に際して極端に重視されるため、女性が(自分の意思ではないにせよ)いったん男性の家に入った後に、結婚を拒否してそこから出ることは“恥”とみなされ、彼女自身だけでなく、家族の名誉をも傷つけかねないこと、伝統的な価値観の中で、高齢の女性が説得にあたると断りづらいこと、などの社会的な要因もあり、誘拐婚の被害女性は自分の意思とは無関係に結婚を受け入れざるを得ないのが実情です。

 アラ・カチューは、もともと、キルギスの遊牧民の習慣で、ソ連時代には、伝統文化と同様、“因習”として共産主義政権によってある程度抑えこまれていました。ところが、1991年にソ連が崩壊し、キルギス国家が独立すると、社会的な混乱に乗じて、女性を誘拐・監禁して結婚を強要するケースが増加するようになり、そこに、民族主義の高揚もあって、誘拐婚を伝統的な“アラ・チュー”として正当化しようとする風潮が強まりました。

 当然のことながら、本人の意思を無視して女性を誘拐することは、それじたい、立派な犯罪であり、現在のアラ・カチューは国際的にも深刻な人権問題として非難されています。このため、キルギス政府は独立後の1994年にアラ・カチューを正式に法律で禁止しましたが、現実には警察や裁判官もアラ・カチューを黙認しており、国連によればキルギスでは、24歳未満の女性の13.8%が誘拐犯との結婚を強いられているとされています。

 今回のデモの直接の発端となったのは、今年5月、キルギス北部チュイ州で誘拐され、結婚を強要された女性(20歳の医学生)が、犯人の男を告発し、警察署で男に不利な証言をしようとしたところ、刺殺された事件です。事件はキルギス国民に大きな衝撃を与え、国連や各種の人権団体のみならず、ソオロンバイ・ジェエンベコフ大統領も犯人を激しく非難していました。

 きのう、ビシュケクで行われたデモでは、1000人以上の参加者たちが「私たちはアラ・カチューに反対する」、「少女たちに幸せになるチャンスを与えよ」といったスローガンを記したポスターを掲げ、抗議の意思を表明したそうです。


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