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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 一の酉
2019-11-08 Fri 00:36
 きょう(8日)は“一の酉”です。というわけで、11月25日付で刊行予定の拙著『アウシュヴィッツの手紙 改訂増補版』の早期重版を祈念して、同書で取り上げた“鳥”のマテリアルの中から、こんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      オシフィェンチムからロンドン宛(1945・裏)
      オシフィェンチムからロンドン宛(1945)

 これは、1945年12月19日、解放後間もないオシフィエンチム(アウシュヴィッツ)からロンドンのポーランド亡命政府関係者宛に差し出された書留航空便で、ポーランドの国章の鷲が入った紫色の検閲印が押されています。

 貼られている切手は、1944年9月13日にルブリン政権が発行した50グロシュ切手に、1945年9月10日、1ズウォティ(=100グロシュ)の改値加刷をした切手5枚と、1945年4月10日に発行された3ズウォティ切手2枚の計11ズウォティ相当です。

 このうち、1ズウォティ切手に描かれているのは、1410年7月15日、ポ-ランド・リトアニア連合軍がドイツ騎士団を破った“グルンヴァルト(ドイツ語名:タンネンベルク)の戦い”を記念してクラクフに建立された記念碑です。一方、3ズウォティ切手には、やはりクラクフのランドマークで、天文学者コペルニクスも学んだヤギェウォ大学が描かれています。

 1945年2月、戦後の国際秩序を決めたヤルタ会談がはじまると、ロンドンの亡命政権とソ連の影響下で樹立されたポーランド共和国臨時政府(1945年、ルブリン政権から改編)のどちらをポーランド正統政府とするかで、英ソは激しく対立。結局、米国の仲裁で、戦後のポーランドで総選挙が実施されるまでは、ルブリンの臨時政府がナチス・ドイツから赤軍が奪還した地域を統治するものとしたうえで、選挙後の政体はポーランド国民自身に選ばせることで決着が図られました。

 また、ドイツ降伏後のポツダム会談では、戦前のポーランド領のうち、東部のウクライナ・ベラルーシ西部をソ連に割譲し、かわりにオドラ川以西のシロンスク(戦前はドイツ領)を戦後のポーランド領に編入することが決められ、東を追われたポーランド人が旧ドイツ領から追放されたドイツ人のかわりに西部に定着するという人口の大移動が起こります。

 さて、ルブリン政権は、ソ連占領当局の意向を背景に警察権を掌握し、反対派を実力で排除。1945年6月に“挙国一致政府”が発足すると、副首相に元亡命政府首相のスタニスワフ・ミコワイチクが就任したものの、親ソ派は首相のオスプカ・モラフスキ以下の重要ポストを独占し、ポーランドの共産化はほぼ決定的となりました。さらに、欧州大戦の戦後処理を話し合うために招集されたポツダム会談において、7月21日、西側諸国は亡命政府との関係を断ち、親ソ派の臨時政府をポーランド政府として承認します。この結果、それまでロンドンのポーランド大使館を拠点に活動を展開していた亡命政府は、大使館からの退去を命じられましたが、その後も1990年までロンドンを拠点に活動を続けていいました。

 今回ご紹介のカバーは、こうした状況の下、1945年12月にオシフィェンチムからロンドン宛に差し出されたもので、宛先の“ロンドン郵便局私書箱260号”は、第二次大戦中の1940年以来の亡命政府陸軍の軍事郵便局の住所で、私書箱番号の後のスラッシュに次ぐ“131”の数字は、名宛人が所属している組織(この場合は、第4歩兵師団第12兵器廠)を意味しています。

 このカバーは、ポーランドでの差出時に検閲を受け、ポーランドの国章である鷲と“Sprawdzono przez/ cenzurę wojskową(軍事検閲官により検閲済み)”の文言が入った検閲印を押されました。その後、ロンドンに到着後、改めて、在英ポーランド陸軍により検閲を受け、英語とポーランド語で“ポーランド第一野戦郵便局”と表示された円形の印が押された後、名宛人に届けられたという段取りになっています。

 前述のように、ナチス・ドイツから祖国を解放するために必死の思いで戦ってきたポーランド人が拠り所としていたロンドンの亡命政府は、1945年7月、国際社会から見捨てられ、その規模は大幅に縮小されましたが、決して霧消したわけではありませんでした。この郵便物は、そうした彼らの存在証明のひとつといってよいでしょう。

 その後も、ロンドンの亡命政府は、小さいながらも共産ポーランドに対抗するポーランド人にとっての象徴的な存在として、東西冷戦の時代を何とか生きながらえます。そして、統一労働者党政権が崩壊し、レフ・ワレサを大統領とするポーランド第三共和国が発足したことを受け、1990年、“大統領”のリシャルト・カチョロフスキが、政権の正統性を示すレガリア(『ポーランド第二共和国憲法』正文、ポーランド国旗正旗など)を第三共和国へと承継し、その役割を終えて、ようやく消滅するのです。

 さて、2015年に刊行した拙著『アウシュヴィッツの手紙』ですが、おかげさまで在庫がほぼなくなりました。また、同書の刊行以降、 Postal History of Auschwitz 1939-1945 と題するコレクションを、2017年のブラジリア2018年のエルサレムと2度の世界切手展に出品し、マテリアルもかなり充実してきました。

 そこで、今回ご紹介のカバーなども加えて、11月25日付で同書の改訂増補版を出版することになりました。すでに、アマゾン等での予約も始まっておりますが、現物ができあがってきましたら、改めてご案内いたしますので、よろしくお願いいたします。


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       (増補改訂版)アウシュヴィッツの手紙・表紙  本体2500円+税(予定)
 
 出版社からのコメント
初版品切れにつき、新資料、解説を大幅100ページ以上増補し、新版として刊行。独自のアプローチで知られざる実態に目からウロコ、ですが淡々とした筆致が心に迫る箇所多数ありです。

 本書のご予約・ご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、本書の目次をご覧いただけるほか、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。
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