郵便学者・内藤陽介のブログ
 切手というモノを、ちょっと違った角度から眺めてみると、あなたの知的好奇心をくすぐる新たな発見がイロイロあるのです。そんな切手の面白さを綴っていこうと思っています。
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 試験の解説(2)
 昨日に引き続き、試験問題の解説です。

 大レバノン

 この切手は、1924年、フランスが“大レバノン”で用いるために発行した加刷切手です。

 第一次大戦中、イギリスは、アラブがオスマン帝国に対して反乱を起こす代わりに、戦後のアラブ国家樹立を認めるという密約を結びます。これをもとに、大戦後、現在の国名でいうとシリア・レバノンの地域を占領したファイサルは、アラブ王国の建国を宣言し、アラブ国家の存在を既成事実化しようとしました。

 しかし、同じくイギリスと大戦後の中東分割について密約を結んでいたフランスは、シリア・レバノン地域を自分たちの勢力下におくことを強硬に主張。結局、フランスのこの主張が通り、1920年7月、ファイサルの勢力はシリア・レバノン地域から駆逐されてしまいます。

 その後、フランスはこの地域を委任統治下に置き、レバノン国・ダマスカス国・アレッポ国・アラウィ自治区に分割。各地域に知事を置き、これを高等弁務官が統括するという古典的な分割統治政策を行いました。

 このうち、レバノンに関しては、1920年8月、“大レバノン”が設置され、オスマン帝国時代の1860年に設置された旧レバノン県(キリスト教徒自治区)にトリポリ、ベイルート、シドンなどの海岸地区とベカー高原を加えた区域が、内陸シリアとは別の行政単位となりました。この“大レバノン”は、旧レバノン県に比べて面積は2倍以上になりましたが、キリスト教系住民が人口の過半数を維持することを最優先にして、これ以上は拡大されませんでした。これは、フランスが“大レバノン”を、イスラム教徒が多数を占める内陸シリアから分離して、中東支配の拠点として育成しようとしたためです。

 ところで、当初、フランスの委任統治下に置かれたシリア・レバノンの全域では、共通の切手が使われていましたが、1924年、フランスの分割統治が軌道に乗ってきたことで、それぞれの地域で別個の切手が使用されるようになり、ここに取り上げた“大レバノン”加刷の切手が発行されるようになったというわけです。

 その後、フランスは1926年5月、委任統治下の保護国として“レバノン共和国”を創設。これにより、“大レバノン”という呼称は使われなくなりました。なお、現在のような完全な独立国家としてのレバノン共和国が発足したのは、1943年のことです。

 試験の解答としては、まず、フランスによるシリア・レバノン地域の分割統治政策に沿って、第一次大戦後、新たに“大レバノン”という行政区域が創設されたことをきちんと指摘したうえで、切手の説明をしているかどうかが大きなポイントになります。その上で、旧レバノン県との比較や、内陸シリアと“大レバノン”を分割しようとしたフランスの意図が説明できていれば、完璧といえましょう。
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プロフィール

内藤陽介 (ないとう・ようすけ)

Author:内藤陽介 (ないとう・ようすけ)
 1967年、東京都生。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。切手の博物館・副館長。切手などの郵便資料から、国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続けている。
 主著:<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵趣出版、現在、第6巻まで刊行)、『北朝鮮事典』、(竹内書店新社)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『切手と戦争』(新潮新書)、『反米の世界史』(講談社現代新書)、『皇室切手』(平凡社)、『これが戦争だ!』(ちくま新書)、『満洲切手』(角川選書)、『香港歴史漫郵記』(大修館書店)、『タイ三都周郵記』(彩流社)ほか著書多数。最新作は『韓国現代史:切手でたどる60年』(福村出版)

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