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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 アラブ首長国連邦結成50年
2021-12-02 Thu 01:57
 1971年12月2日、ペルシャ湾岸のアブダビ、ドバイ、シャルジャ、アジュマーン、ウンムルカイワイン、フジャイラの各首長国が集合して“アラブ首長国連邦(UAE)”が結成されてから(ラサールハイマは翌1972年に参加)、ちょうど50年になりました。というわけで、きょうはこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      UAE・アブダビ加刷航空書簡

 これは、UAE発足後まもない1972年8月、連邦結成以前にアブダビが発行した航空書簡に、UAEの新国名と新額面を加刷して発行された航空書簡です。

 UAEは、その名の通り、ドバイ、アブダビなど、ペルシャ湾岸の群小首長国からなる連邦国家で、1971年12月に連邦が成立する以前は、それぞれの首長国は英国と休戦協定を結んで、英国の保護国になっていました。

 もともと、これら群小首長国はインド洋での海賊行為を主な収入源としていました。そこで、英国はインド洋のシーレーンの安定を確保するため、これらの首長国に年金を支給する代わりに、首長国を保護国化して軍事・外交権を掌握したのです。一方、首長国からすれば、一定の現金収入が確保されるうえ、英国を後ろ盾に対岸の大国であるイランの脅威に備えられる保護国の地位は魅力的なものでした。

 ところが、1968年、英本国の労働党政権が、1971年末をもってスエズ以東から軍事的に撤退することを発表します。

 当時の英国はいわゆる英国病が深刻な状況で、経済的な苦境に陥っていました。一方、アブダビでは1958年に油田が発見され、1966年にはドバイ沖でも海底油田が発見されるなど、休戦協定諸国の中にはオイルマネーで潤う国が出てきました。このため、英国内では、自国の経済が衰退する中で、なぜ豊かになったドバイやアブダビに年金を支給し、防衛まで負担しなければならないのか、という当然の不満が生じます。労働党政権はそうした民意を汲んで、ペルシャ湾岸からの撤兵を決断したわけです。

 これに対して、年金はともかく、保護国の座に安住し、英国は永遠に自分たちをイランの脅威から守ってくれるものと思い込んでいた湾岸首長国はパニックに陥り、英軍の駐留継続を強く要請しましたが、英国の決意は固く、彼らの懇願を頑としてはねつけました。

 そこで、追い込まれた首長国側は、長年の対立関係にあったドバイとアブダビが1968年中に和解し、事実上の連邦形成に合意。両国間では外交、軍事、通貨、市民サービス、市民権、ならびに出入国管理業務などが統合され、首長国の連合によりイランの脅威に対抗するという方向性が当事者から示されることになります。

 その後、1970年には現在UAEを構成している7首長国にバハレーンとカタールを加えた全9首長国で連合国家を形成するよう、サウジとクウェートが斡旋に乗り出しましたが、バハレーンを不倶戴天の敵とみなしているカタールが強く反対。また、バハレーンは、サウジとは王室同士が縁戚関係にあり、それゆえ、サウジの強い影響下にある国ですが、対岸のイランは、そもそも、バハレーンの独立を認めず、バハレーンは自国の領土であるとさえ主張していました。このため、バハレーンと国家連合を組めば、それを口実にイランが攻めてくるかもしれないとの恐怖にかられた休戦協定諸国も、バハレーン中心の国家連合には反対。この構想は早々に頓挫してしまいます。

 結局、1971年8月にバハレーンが、翌9月にカタールが、それぞれ単独で独立し、休戦協定諸国のうち、ラサールハイマを除く6首長国は同年12月2日、アラブ首長国連邦を結成します。

 ちなみに、ラサールハイマの支配一族であるカワーシム族は、バニー・ヤース系のアブダビとドバイが石油収入を得て経済的に発展したことに激しい競争心を持っていたため、同じく、アブダビとドバイの風下に立つことを内心、快く思っていなかったシャルジャを誘って独自の国家建設をめざしましたが、最終的にシャルジャがUAEへの加盟を決断したため、ドバイやアブダビに依存しない独立国家の建設を目指し、当初はUAEには参加しませんでした。

 ところが、UAE設立直前の1971年11月、ラサールハイマが実効支配していた沖合のトゥンブ諸島にイラン軍が侵攻して、瞬く間にここを占領。これに対して、国際社会ではラサール=ハイマを擁護する国は皆無でした。さらに、イランはシャルジャに対して圧力をかけ、シャールジャ沖合のアブー・ムーサー島(油田がある)の主権を強引に譲渡させています。

 身をもってイランの恐ろしさを体験したラサール・アル=ハイマは、前言を翻して、寄らば大樹とアブダビとドバイに合流することを決断し、1972年2月、慌てて連邦に加盟。こうして、現在のUAEの枠組ができあがりました。

 郵便に関しては、1971年12月のUAE 結成当初、連邦全体を統括する郵政機関は成立しておらず、各首長国の切手も当面はそのまま有効とされていました。また、UAE全域の統一通貨としてUAEディルハムが導入されるのは1973年5月19日のことで、それ以前は、従前どおり、アブダビを除く6首長国ではカタール・ドバイ・リヤル(補助通貨はディルハム。1リヤル=100ディルハム)が、アブダビではバハレーン・ディナール(補助通貨はフィルス。1ディナール=1000フィルス)がそのまま使用されており、切手の額面もそれぞれの通貨に対応していました。

 こうした状況の下、連邦発足に伴う移行期間の措置として、1972年7月31日まで各首長国はそれぞれ独自の切手を発行していましたが、同年8月以降、各首長国が独自に新切手を発行することが禁じられます。

 これを受けて、連邦全域で有効のUAE共通切手類を発行するまでの暫定措置として、UAEを構成する首長国中、最大の首長国であったアブダビの切手類のアラビア語の国名表示を二重線で抹消したうえで、その下に新国名の“دولة الإمارات العربية المتحدة”を、欧文の国名表示の上に“UAE”の文字を、それぞれ加刷した暫定的な切手類が発行され、使用されることになりました。

 今回ご紹介の航空書簡はその一例で、印面に描かれているのは、当時のアブダビ首長、ザーイド・ビン=スルターン・アール=ナヒヤーンです。なお、ザーイドはUAEの成立とともに、連邦の初代大統領に選出されています。

 ただし、UAE暫定加刷切手の額面は、当時、アブダビのみで流通していたバハレーン・ディナールでの額面表示になっていたため、他の首長国の領域では使い勝手が悪かったようで、アブダビ以外ではほとんど使用されていません。

 その後、1973年1月1日、UAEの発足から1年余りを経て、ようやく、UAE郵政はUAEの国旗や国章、各首長国の風景などを取り上げた、UAEとして最初の正刷切手を発行。この時発行された切手は、同年5月からの新通貨、UAEディルハムの導入をにらんで、UAEディルハムの額面表示になっていますが、各地の郵便局では、切手発行時に実際に市中で流通していたカタール・ドバイ・リヤルに関しては、公定交換レートの1ディルハム=1リヤルで、アブダビで使用されていたバハレーン・ディナールに対しては1ディルハム=0.1ディナールで換算した金額で切手を販売しています。

 なお、UAEの成立から昨年(2020年)のイスラエルとの国交正常化までの経緯については、拙著『世界はいつでも不安定』でも詳しくまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。


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 12月6日(月) 05:00~  おはよう寺ちゃん
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