内藤陽介 Yosuke NAITO
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 トルコの世俗主義
2007-05-07 Mon 01:47
 昨日(6日)、トルコ国会の大統領選挙(国会で選出される国家元首だが、政治的な権力者というより名誉職的な色彩が強い)で、唯一の立候補者でイスラム色が強い公正発展党(AKP)のギュル外相が立候補を取り下げ、選挙が事実上、頓挫しました。これは、政教分離の原則が揺らぐことを懸念する野党陣営の大半が投票をボイコットし、投票成立要件である定数の3分の2(367人)に満たない358人しか議員が出席しなかったことが原因です。

 このニュースを聞いて思い出したのが、この切手です。(画像はクリックで拡大されます)

トルコ交通安全

 これは、1977年にトルコで発行された交通安全のキャンペーン切手で、事故で引っくり返った自動車が描かれています。この切手でご注目いただきたいのは、車のナンバープレートです。

 実は、このとき発行された切手は、当初、ナンバープレートがアラビア文字の数字で書かれていたのですが、そのことが“言語純化政策”に触れて、急遽、プレートの部分をラテン文字のアルファベットに置き換えた切手が発行されました。今回、ご紹介しているのは、そのラテン文字バージョンのほうです。

 言語純化政策というのは、ケマル・アタテュルクによって開始されたトルコ語の固有語復活とアラビア語、ペルシア語からの借用語の除去によってトルコ語の純化を行おうとする運動のことで、文字改革によるアラビア文字の禁止とラテン文字の採用も含まれています。

 1923年にトルコ共和国を建国したケマルは、独裁的な指導力を行使して大胆な欧化政策を断行。イスラム勢力を一掃し、1928年には憲法からイスラムを国教と定める条文を削除することに成功します。言語純化政策もその一環として行なわれたもので、アラビア文字はイスラムと結びつきやすいとして廃止されました。

 その後も、トルコではイスラム勢力が政治的な影響力を増大させることへの懸念から、徹底した政教分離政策が国是となっており、切手に描かれたわずかなアラビア文字も容赦なく排除されてしまったというわけです。

 もっとも、トルコ国民の99%はイスラム教徒なわけで、そういう国でイスラムを問答無用で公の場から排除してしまうことが妥当なことなのか、疑問がないわけではありません。実際、イスラム主義政党のAKPは2002年の選挙の結果、単独与党になっているのですが、現職のセゼル大統領や参謀総長を始めとする軍部、検察・憲法裁判所などの世俗主義エスタブリッシュメント層は、明らかに職権の範囲を越えて政権への批判・介入を行なっており、このことがトルコの政局を不安定にしていることは否定できません。

 まぁ、“政教分離”をめぐる議論というのは、どの国においても一筋縄では行かないものですが、切手を通して各国の事例を眺めていくようなことができれば面白いでしょうね。

 【飛鳥美人の救出まであと3日】
 5月10日、劣化の激しい高松塚古墳・西壁壁画“飛鳥美人”の取り外し作業が始まります。この壁画の発見当時の美しい姿を再現した「高松塚保存基金」の切手(1973年3月発行)と、当時の高松塚ブームならびに切手ブームについては、拙著『沖縄・高松塚の時代』をご覧ください。
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