内藤陽介 Yosuke NAITO
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 ホンモノだけどニセモノ
2007-12-14 Fri 09:41
 年末になると発表される“今年の漢字”ですが、2007年は、相次ぐ食品の偽装表示などを反映してか、“偽”が選ばれたそうです。というわけで、今日はこんなモノを持ってきてみました。(画像はクリックで拡大されます)

ルース・カバー

 これは、日本軍占領下の香港で使われた風を装った“ルース・カバー”と呼ばれているものです。

 第2次大戦中、日本軍の直轄植民地とされた香港では、日本本土と同じ切手が使用されていました。こうした使用例は、日本切手の収集家にとって興味深い収集対象として人気があり、戦時中から、通常の国内使用例に比べて高値で取引されてきました。たとえば、現在の相場でも、このカバーの一番右側の7銭切手の場合、ごくごくフツーの使用済みは1枚数十円で買えますが、香港で使われたことがハッキリわかるものだと、2000~3000円くらいはするでしょう。ちなみに、未使用の切手は1枚150円くらいです。

 このような事情があったところに、終戦から10年ほど経過した1956年、突如として日本切手の香港での使用例が大量に日本・イギリス・香港のマーケットに出現します。

 このとき出現した使用例の多くは、エアメールの封筒に日本切手が貼られたもので、宛名の大半は“Mr. H. da Luz, 64, Macdonnell Road, Hong Kong”となっていたことから、名宛人である切手商の名を取ってルース・カバーと呼ばれています。

 ルース・カバーの真偽については、その出現当初からさまざまな議論があったのですが、さまざまな検証の結果、現在では、戦後、香港に残されていた大量の日本切手を戦後のインフレにより安価に手に入れたルースが、何らかの手段を使って入手した真正の消印を用いて日本占領時代の封筒に見せかけて変造したものということで概ね決着しています。

 今回ご紹介しているのは、そうしたルース・カバーの一例で、1944年に発行されたはずの東郷平八郎の7銭切手に1943年の消印が押されているものです。これなら、真っ赤なニセモノであることが一目瞭然といえましょう。

 このように、未使用切手と使用済やカバーの値段に大きな隔たりがある場合には、当然のことながら、一儲けをたくらんで偽造品を作る輩は後を絶ちません。特に、ルース・カバーのように、切手も消印もホンモノだけれど、カバーとしてはニセモノというケースは非常に厄介で、頭の痛いところです。ちなみに、最近では、ルース・カバーに貼られていた切手を切り取って、消印の読めるオンピースの状態でオークションに出品するというケースもあります。これだと、切手も消印もホンモノなので、売り手は“真正品”だと主張しますから、始末が悪いですね。

 なお、日本軍占領下の香港での切手や郵便については、拙著『香港歴史漫郵記』でもいろいろと解説しています。拙著の図版に使っているブツにはニセモノはない(と思います)ので、ぜひ、ご覧いただけると幸いです。
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この記事のコメント
#1078 ショックです!
これとほぼ同じようなアイテムを数点持っています。20年ほど前にスタンプオークションで入手したのですが、偽物だったとは非常にショックです!戦時中のものにしてはものすごく状態がよいので入手当時から怪しいとは思っていましたが何だか死刑宣告を受けたような気分です。
2007-12-15 Sat 11:56 | URL | Patriot #vOq7aob.[ 内容変更] | ∧top | under∨
 Patriot様
 コメントありがとうございます。(亀レスですみません)
 ルースカバーの件、お気の毒としかいいようがないのですが、現在でも、切手はホンモノ、消印もホンモノということで、そのまま販売されていることもあるようですね。せめて、“ルース・カバー”と明記してくれれば、まだ罪は軽いと思うのですが・・・。すくなくとも、これ以上“犠牲者”が出ないよう、さまざまな機会を捉えて、我々はこのことをアピールしていく必要があるんじゃないかと思います。

 今後とも、よろしくお願いいたします。
2007-12-19 Wed 12:20 | URL | 内藤陽介 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
#1093 私もショック!無念
 ひょっとしてと思い、7~8年前、東京で開催された国際切手展で入手した3枚のカバーを見てみると、何と、1枚にまったく同じルースの名と住所が印字されているではありませんか。愕然!、呆然!。宝くじや抽選には縁がないのにこういうのには当るんですねぇー。残念無念でした。たしか英国の業者から2千円ほどで買ったものですが、そんな説明はありませんでした。残る2枚のうち1枚は、同様のエア・メール封筒を半分にしたサイズのものに、「大東亜戦争一周年記念」のスタンプが梅花模様の10円通常切手に押されているもので、ペン字で宛先らしき文字がなぐり書きされています。もう1枚は「九龍油麻地」局の消印で、日付が「20.8.15」と終戦の日であることから大枚16,000円を払って購入したものです。厚手の無地の封筒にルースではなく「P.S.Ling」の名と住所が印字され、切手は香港総督府暫定と加刷された「乃木」と「女子工員」のものです。ま、しかし、これらもできすぎの怪しいカバーに思えてきました。偶然このブログを知り、思いがけず貴重な情報を得ることができて感謝いたしております。香港は好きな街で、日本占領時代の香港はどんな街だっただろうなどと思いを巡らせたりするのですが、いつもながら香港人のズルさとしたたかさにはやられます。厳しくも面白い香港事情を知るうえでの貴重な記念に取っておきます。ありがとうございました。
2008-01-13 Sun 23:57 | URL | 鳥篭老人 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
 鳥篭老人様
 おそらく、イギリスの業者は単に知識がなくて、切手がホンモノ、消印もホンモノなので仕入れて売ってしまったのでしょう。
 大東亜戦争1周年の特印については、明らかな偽造印のカバーも多いので注意が必要です。
 とにかく、未使用の安い切手が消印によって高価に取引される場合というのは、偽消が発生しやすいですから、事情を分かっている人間が警鐘を鳴らしていかないといけませんね。
2008-01-16 Wed 23:45 | URL | 内藤陽介 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
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