内藤陽介 Yosuke NAITO
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 ナセル生誕90年
2008-01-15 Tue 14:38
  エジプトの元大統領、ガマール・アブドゥン・ナーセル(一般に“ナセル”と呼ばれている人物です)が1918年1月15日に生まれてから、今日でちょうど90年です。というわけで、ナセルがらみの切手の中から、こんなモノを持ってきてみました。(画像はクリックで拡大されます)

 イエメン・ナセル表
 イエメン・ナセル裏

 これは、1971年にイエメンで発行されたナセルの追悼切手が貼られたカバーです。消印がハッキリ読めないのですが、上の画像・右下の5B切手の消印では、“21.1.?1”との日付がかろうじて読めますので、おそらく、1971年の使用例だろうと思います。

 エジプト革命を成功させ、スエズの国有化を宣言。さらに英仏の攻撃に屈せず、第2次中東戦争を勝利に導き、アラブ世界の英雄となったナセルでしたが、1958年に行ったエジプト・シリアの国家連合は1961年に破綻し、その威信は大きく揺らぐことになります。

 こうした状況の中で、1962年9月、イエメンで共和革命が発生。これに抵抗する王党派が山岳地帯に逃れ、いわゆるイエメン内戦が勃発します。

 イエメン内戦は、そのまま放置しておけば、いずれ王党派が投降して終わりという雰囲気が強かったのですが、革命政権がエジプトに支援を要請したことから事態は転換。国家連合破綻の失点を回復しようとしたナセルは、ただちにイエメン内戦への介入を決断し、エジプト軍を派遣して、革命政権への全面的支援を約束します。

 これに対して、保守派君主国の雄サウジアラビアは、エジプトに始まるアラブ民族主義の共和革命がついにアラビア半島へと上陸したことで深刻な脅威を感じ、王党派を支援。こうして、イエメン内戦はエジプトとサウジアラビアの代理戦争の様相を呈するようになります。

 イエメン内戦は、アラブ世界の保守派と革命派を巻き込み、泥沼のアラブ内戦の様相を呈しながら、1970年まで続くことになるのですが、内戦への介入が長引くにつれ、エジプト経済は次第に疲弊していきます。また、イエメンへの派兵により、イスラエルに対するエジプトの軍事力も次第に低下し、ナセルの国際的威信はさらに低下するという悪循環をもたらしました。その帰結が、1967年の第3次中東戦争での惨敗であり、1970年のヨルダン内戦とその調停途中でのナセルの死というかたちでつながっていくことになります。

 こういう経緯もあって、イエメンの革命政権は1971年早々にナセルの追悼切手を発行したわけですが、その実逓使用例は決して多くはありません。その意味では、今回ご紹介したカバーは決して状態の良いものではないのですが、とりあえずのところ、これで我慢をせざるを得ないというのが正直なところです。

 ところで、今回ご紹介のカバーは、“キプロスのニコシア郵便局長”宛になっている点にもご注目下さい。当時、アラブ諸国はイスラエル宛の郵便物を取り扱いませんでしたが、現実には、イスラエル占領地域にはパレスチナ人が多数住んでおり、彼らと海外のパレスチナ人との間では郵便交換が必要でした。このため、海外のパレスチナ人は、イスラエル支配地域宛の郵便物を、いったん“中立国”のキプロスに送り、そこから宛先地まで転送してもらうという方法を取っています。このカバーも、おそらく、そのような事情でイエメンのサナアからキプロスまで送られたものでしょう。

 現在、都内の某大学で“中東郵便学”と題するパートタイムの授業をやっているので、ナセルとその時代に関する切手や郵便物は少なからず集めています。前々から、それをまとめたコレクションを展覧会に出品してみようと考えているのですが、2006年のスエズ運河国有化50年、2007年の第3次中東戦争40年のタイミングには間に合わいませんでした。今年は、ナセル生誕90年とエジプト・シリアの国家連合50年ということでタイミング的にはばっちりなのですが・・・。

 <おしらせ>
 1月26日(土)の14:00から、東京・水道橋の日本大学三崎町キャンパス法学部6号館1階 第6会議室(6号館入口を入ってすぐ左手の会議室)にて開催のメディア史研究会にて、「タイ・前期ピブーン政権とポスタル・メディア」と題してお話をします。内容は、拙著『タイ三都周郵記』の内容をベースに、日本との関係が濃密だった第2次大戦中のタイについて、切手や郵便物から読み解いてみるというものです。

 メディア史研究会はまったく自由な研究会で、会員以外の方でも気楽にご参加いただけますので(もちろん、無料)、よろしかったら、ぜひ、遊びに来てください。
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